加藤喬の司法試験・予備試験対策ブログ

令和3年予備試験解答速報「憲法」を一般公開いたします

憲法の解答速報に限り、サンプルとして、加藤ゼミナールに会員登録をしている方々に限定しないで一般公開しております。憲法以外の6科目の解答速報は、会員登録をしている方々のみ閲覧することができます。

表面的な解答筋だけでなく、参考答案の背後にある考え方・書き方も参考にすることで、来年以降にも活かせるような分析をして頂きたいと思います。

本問で大事なことは2つです。

  • 違憲審査の基本的な枠組みで照らしなら問題文を読み、違憲審査の基本的な枠組みを「答案の骨格」として、そこに、判例知識、学説知識、問題文のヒント及びその場で自分が考えたことを「肉付け」する形で答案に反映する。
  • 広告物掲示と印刷物配布とで周辺環境に悪影響を及ぼす程度ないし態様が違うことについて、目的審査又は手段必要性審査で言及する。

憲法の解答速報動画

使用レジュメ(問題文・解説・参考答案)


問題処理のコツ

まず初めに、本問が「保障→制約→違憲審査基準の定立(主として人権の重要性と規制の態様を考慮)→目的手段審査による当てはめ」という違憲審査の基本的な枠組みを適用することができる事案に属するかを確認します。

本問が違憲審査の基本的な枠組みを適用することができる事案に属するのであれば、違憲審査の基本的な枠組みで照らしなら問題文を読み、違憲審査の基本的な枠組みを「答案の骨格」として、そこに、判例知識、学説知識、問題文のヒント及びその場で自分が考えたことを「肉付け」するイメージで、問題を処理します。

問題文のヒントから本問で問われていることを確認する

問題文33~35行目では、「B市歴史的環境保護条例」案のうち、表現活動を規制する部分の憲法適合性について論じなさい。なお、同条例案と屋外広告物法・屋外広告物条例、道路交通法などの他の法令との関係については論じなくてよい。」とあります。ここから、①本条例案自体の違憲性(法令違憲審査)だけが問われていること、②本条例案の法令違憲審査では「表現の自由」の侵害についてだけ論じればいいこと、③憲法94条違反が不問であることの3点が導かれます。

問題文のヒントから条例による規制の仕組みを正確に把握する

本条例案は、①C地区の特別規制区域内における広告物掲示の原則禁止、及びC地区の特別規制区域内の路上における印刷物配布の原則禁止を定めており、いずれも「C地区の歴史的な環境を維持させる」ことを目的とするものです。

このように、問題文のヒントから、「いかなる目的から(規制の目的)、いかなる自由が(被侵害権利)制約されているか」という規制の仕組みを正確に把握することが重要です。

論述の概要

まず、広告物掲示及び印刷物配布がいずれも「表現の自由」として保障されることについて、「表現の自由」の意義を明らかにした上で、論じます。その際、営利公告の自由についてまで言及するべきは悩ましいところです。屋外広告物は、営利性のあるものに限定されませんし、本件における屋外広告物については、本件印刷物と異なり、「観光客を目当てにして」(問題文7行目)という記述もありません。そうすると、広告物掲示について、営利公告として論じることは求められていないと思われます。印刷物配布については、「特別規制区域内の店舗の関係者が自己の営業を宣伝する印刷物を路上で配布することは禁止されない」(問題文29~30行目)とあるので、印刷物配布のうち営利公告は規制対象外とされています。そうすると、印刷物配布についても営利公告として論じることは求められていないと思われます。したがって、私の答案では、営利公告という点には言及していません。

次に、本条例案が各自由を制約していることについて論じます。制約が認められることは争点ではありませんから、簡潔に指摘すれば足ります。

そして、主として人権の重要性と規制の態様を考慮して、違憲審査基準を定立します。人権の重要性を論じる際には、(1)表現の自由の価値(自己実現の価値及び自己統治の価値)、(2)広告物掲示及び印刷物配布の表現手段としの利便性及び(3)パブリック・フォーラムの理論(大分県屋外広告物条例事件の伊藤正己裁判官の補足意見)に言及することになると思います。規制態様については、(4)事後規制にとどまることと、(5)表現内容中立規制であることに言及することになるでしょう。人権の重要性が高い一方で、規制の態様は強度ではありませんから、中間審査の基準を採用するのが適切であると考えます。

最後に、目的手段審査による当てはめに入ります。私は、広告物掲示と印刷物配布の相違が本問における大きなテーマの1つであると考えています。そこで、私の答案では、両者の相違の一環として、広告物掲示と印刷物配布とではC地区の歴史的な環境を阻害する程度が異なるということを、印刷物配布を規制する立法目的の重要性のところで論じています。手段審査については、参考答案をご確認ください。

総まくり講座との関連性

令和3年予備試験憲法も、令和2年と同様、総まくり講座との相性が非常に良いです。

違憲審査の基本的な枠組みという総論的なことについては総まくり講座の差最重要部分である「第1部  答案作成上の作法」で丁寧に説明していますし、広告物掲示及びビラ配布は、いずれもAランク分野に位置づけており、パブリック・フォーラムの理論(大分県屋外広告物条例事件の伊藤正己裁判官の補足意見)もテキスト・論証集に反映している上、広告物掲示とビラ配布の相違についても口頭で説明済みです。

したがって、総まくり講座のAランク知識だけで、上位答案を作成することができる問題であったといえます。

参考答案

第1.本条例案は、広告物掲示の原則禁止を定める点で、「表現の自由」を侵害するものとして憲法21条1項に違反しないか。

1.「表現の自由」は、思想・意見・情報を発表し、他者に伝達することをいう。

 広告物掲示は、思想・意見・情報を発表・伝達する手段であるから、「表現の自由」として憲法21条1項により保障されると解する。

2.本条例案は、広告物掲示を原則禁止することにより、広告物掲示の自由を制約している。

3.違憲審査基準の厳格度は、人権の重要性や規制の態様などを考慮して決せられる。

 表現の自由は、個人が言論活動を通じて自己の人格を発展させるという自己実現の価値と、言論活動により国民が政治的意思決定に関与することで民主政に資するという自己統治の価値を有する重要な人権である。

 また、広告物掲示には、低廉な費用で、極めて容易かつ永続的に思想・意見・情報を広範囲の人に伝達できるという価値がある。

さらに、C地区は、多くの観光客が行き来する地区である上、多くの看板等が設置されているため、広告物を掲示するに適当な場所としてパブリック・フォーラムたる性質を帯びるから、C地区における広告物掲示の自由には可能な限り配慮する必要がある。

 他方で、規制態様は事後規制にとどまるから、事前抑制と異なり、表現内容に対する公の批判が失われる、規制範囲が広汎にわたるために濫用のおそれが大きい、抑止的効果が大きいとはいえない。

また、規制態様は表現内容中立規制であるから、国家が自己に都合の悪い表現を抑圧する危険が小さい上、他の場所・方法による表現の途が残されている。

 そこで、本条例案が広告物掲示の自由を侵害するかどうかは、立法目的が重要であり、かつ、手段が立法目的との関係で実質的関連性を有するかどうかにより審査されるべきである。

4.規制目的は、C地区の歴史的な環境を維持し向上させることにある。C地区は、江戸時代に宿場町として栄え現在もその趣を濃厚に残している。そして、広告物掲示では、広告物がその場に固定されて継続的に不特定多数の他者の視界に入るため、周辺環境を阻害する程度が大きいから、C地区の看板等の7割程度が街並み全体に違和感なく溶け込んだ江戸時代風のものとなっていることを踏まえても、C地区の歴史的な環境を維持しより一層向上させることは、目的として重要であるといえる。

 広告物の中には、C地区の歴史・伝統とは無関係な内容であり、C地区の歴史的な環境を阻害するものもある。したがって、広告物掲示を原則禁止することには、C地区の歴史的な環境に合わない広告物の掲示によりC地区の歴史的な環境が阻害されることを阻止する効果があるから、手段適合性が認められる。

 広告物掲示が原則禁止される地域は、C地区のうち歴史的な環境を維持し向上させていくために特に規制が必要な特別規制区域に限定されている。しかも、規則で定める基準に適合する場合と市長の許可がある場合には、例外的に掲示が認められる。そうすると、規制手段は、目的達成のために必要な限度にとどめられており、本条例案と同程度に立法目的を達成することができるより制限的でない他の選び得る手段は見当たらない。したがって、手段必要性もある。なお、禁止の実効性を担保するためには禁止に違反した場合における制裁としての罰則が必要であることと、刑事罰の内容が懲役刑ではなく罰金刑にとどまっていることから、刑事罰まで定められている点は手段必要性を否定しないと考える。

以上より、本条例案のうち、第1の部分は、手段の実質的関連性もあるから、憲法21条1項に反せず合憲である。

第2.本条例案は、路上での印刷物配布の原則禁止を定める点で、「表現の自由」を侵害するものとして憲法21条1項に違反しないか。

1.印刷物配布は、思想・意見・情報を発表・伝達する手段であるから、「表現の自由」として憲法21条1項により保障される。

2.本条例案は、特別規制区域内の路上での印刷物配布を原則禁止することにより、印刷物配布の自由を制約している。

3.印刷物配布には、低廉な費用で社会における少数者の意見を他人に伝える最も簡便で有効な手段の一つとしての意義がある。また、路上は、印刷物を配布する者に対して開かれた場所であるという意味で、印刷物を配布するのに適当な場所としてパブリック・フォーラムたる性質を帯びるから、C地区における印刷物配布の自由には可能な限り配慮する必要がある。他方で、規制態様は、事後規制である上に、表現内容中立規制にとどまる。

 そこで、本条例案が印刷物配布の自由を侵害するかどうかは、第1の3と同じ違憲審査基準により審査されるべきである。

4.確かに、印刷物配布では、広告物掲示と異なり、印刷物がその場に固定されないし、それを受け取った特定少数の他者の視界にしか入らない。そのため、印刷物配布がC地区の歴史的な環境を阻害する程度は、広告物掲示の場合に比べて小さい。そうすると、印刷物配布からC地区の歴史的な環境を守るという目的には重要性が認められないとも思える。しかし、印刷物配布の規模ないし頻度によっては、これによる周辺環境の阻害の程度が広告物掲示による場合に比肩することもある。したがって、規制目的は重要であるといえる。

 C地区の歴史・伝統とは無関係な各種なビラが路上で頻繁に配布されるようになっているから、こうした印刷物の配布を禁止することには上記目的を促進する効果があり、手段適合性が認められる。

 配布禁止区域が特別規制区域内に限定されている上に、特別規制区域内の店舗の関係者が自己の営業を宣伝する印刷物を路上で配布することはC地区の歴史的な環境を損なわないとの理由から例外的に許容されているから、手段必要性もある。なお、罰金刑が定められている点は、第1の場合と同様、手段必要性を否定しない。

 以上より、本条例案のうち、第2の部分は、手段の実質的関連性もあるから、憲法21条1項に反せず合憲である。以上

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加藤ゼミナールは、加藤喬講師が代表を務める予備試験・司法試験のオンライン予備校です。

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加藤ゼミナール代表取締役
加藤 喬かとう たかし
加藤ゼミナール代表取締役
弁護士(第二東京弁護士会)
加藤ゼミナール代表
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院(既修) 卒業
2014年 労働法1位・総合39位で司法試験合格
2021年 7年間の講師活動を経て、「法曹教育の機会均等」の実現と「真の合格実績」の追求を理念として加藤ゼミナールを設立
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