加藤喬の司法試験・予備試験対策ブログ

令和5年予備試験論文解答速報

令和5年予備試験論文解答速報として、基本7科目及び労働法の解説動画・参考答案を公開しております。

法律実務基礎科目については、雑感のみとなります。

令和5年予備試験論文式の出題趣旨 2024.2.2追記

 

【憲法】

速報資料はこちらよりダウンロードしていただけます。

(加藤講師のコメント)

フリージャーナリストを自称するXが家具メーカー甲の元従業員乙を取材して得た内容を動画サイトに投稿したことに関して、甲が乙に対して守秘義務違反に基づく損害賠償請求訴訟を提起し、Xの証人尋問において、取材源の秘密について「職業の秘密」(民訴法197条1項3号)として証言拒絶が認められるかが問題となっています。

本問では、取材源の秘密について「職業の秘密」として証言拒絶が認められるかについて、NHK記者証言拒否事件決定を踏まえて論じることになります。

司法試験でも予備試験でも、保障→制約→違憲審査基準の定立→目的手段審査という違憲審査の基本形で処理する問題が多いですが、令和5年の問題は、違憲審査の基本形で処理できる問題ではなく、参考判例であるNHK記者証言拒否事件決定の枠組みに従って論じる必要があります。したがって、他年度の問題に比べて、答案作成における判例知識の重要度が増しています。

近年の予備試験では、令和1年におけるエホバの証人剣道実技受講拒否事件判決の類題、令和2年における取材活動の制限(参考判例は博多駅事件決定)、令和3年における屋外広告物掲示と印刷物配付に関する規制条例(参考判例は大阪市屋外広告物条例事件判決、吉祥寺駅構内ビラ配布事件判決)、令和4年における私鉄の労働者の争議行為等の禁止(参考判例は都教組事件判決、全農林警職法事件判決など)、令和5年におけるNHK記者証言拒否事件決定の類題というように、これまでにも増して、特定の最高裁判例を意識した出題をする傾向が強くなっています。

 

【行政法】

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(加藤講師のコメント)

設問1(1)では、廃掃法に基づく一般廃棄物収集運搬業の許可の取消しを求める既存の許可業者の原告適格が問われており、一般廃棄物処理業の許可処分等の取消しを求める既存の許可業者の原告適格を肯定した判例(最判H26.1.28・百Ⅱ165)も参考にしながら論じることになります。

設問1(2)では、Cに原告適格が認められることを前提として、廃掃法に基づく一般廃棄物収集運搬業の許可の取消訴訟の係属中に同許可が更新された場合における訴えの利益の消長が問われています。A市の主張は、本件許可は有効期間の満了により失効したのだから、本件取消訴訟は取消しを求める「処分」が存在しないという意味で訴えの利益を欠くというものであり、解答としては、A市の主張を踏まえて、Cの立場から、本件取消訴訟の訴えの利益は肯定されるとの主張を展開することが求められています。直接の手掛かりとなる判例・学説は見当たらないが、放送局の開設免許における競願関係の事案において、予備免許の免許期間満了に伴い再免許が付与された場合であっても、予備免許の取消訴訟における訴えの利益が認められるとした判例(東京12チャンネル事件・最判S43.12.24・百Ⅱ166)を参考にすることも可能であると思われます。

設問2では、「本件許可は新計画に適合していること、法第6条に規定する一般廃棄物処理計画の策定及び内容の変更についてはA市長に裁量が認められており、新計画の内容はその裁量の範囲内であること、並びにDに事業遂行能力がある以上、自由な参入を認めざるを得ないこと」というA市の主張を踏まえて、Cの立場から、「法第7条第5項第2号及び第3号の各要件に関して、…違法事由」を展開することが求められています。許可事由全般に要件裁量を認めるのではなく、法7条5項2号の許可事由については要件裁量を認めた上で判断過程審査を行う一方で、法7条5項3号の許可事由については要件裁量が認められないことを前提として廃掃法施行規則第2条の2の各基準について非該当性を論じることになります。

行政法では、判例の類題が出題されることがある一方で、設問1(2)と設問2のように、直接の手掛かりとなる判例・学説が見当たらない出題も多いです。

 

【民法】

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(加藤講師のコメント)

設問1では掛け軸の修復を内容とする請負契約の成立前から掛け軸が修復不能な状態にあった事案における報酬請求や損害賠償請求の可否・範囲、設問2では販売委託契約に基づく販売権限の消滅後に受託者が目的動産を処分した事案における占有改定による即時取得の成否と代理権消滅に関する112条1項の類推適用の可否が問われています。

令和5年の民法は、既存論証を張り付ける場面は「占有改定による即時取得の成否」だけであるため、法律構成と要件検討重視の問題であり、これは近年の出題傾向に沿うものであるといえます。したがって、既存論証を丸暗記するだけでは、民法の問題に合格答案を書くことはできず、法律構成力や要件検討の作法などをしっかりと身につける必要があります。

もっとも、既存論証を張り付ける箇所が少ないからといって、過度に論点学習を軽視するべきではありません。論点学習には、第一次的には、当該論点の出題可能性に備えるという意義がありますが、第二次的には、背後にある他の論点にも共通する論証の基本構造や基本的な考え方、構成力、読解力、文章力といった汎用性の高いことを培うことにもあり、これらを総動員して本試験で問題を解くことになるわけです。知識として直接問われている論点は少ないですが、他の論点学習で培ったことも総動員して問題を解くという意味では、他の論点学習で培うことも間接的に問われているわけです。

 

【商法】

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(加藤講師のコメント)

設問1では、株主総会決議の取消しを求める訴えにおいて、議案要領通知請求権と議決権行使の代理人資格を株主に限定する定款規定の有効性・適用範囲が出題されています。

設問2では、新株発行無効の訴えにおける無効原因として、不公正発行、有利発行及び募集事項の通知・公告の欠缺が問われています。

出題事項のほとんどはAランクの典型論点であるうえ、これらを事案から抽出することも比較的容易であるため、合否ラインを競う受験生の間においては、論点抽出の次元ではあまり差がつかないです。合否ラインで差をつけるためには、条文操作の網羅性・正確性、論証の正確性及び当てはめの充実性が必要であり、特に、当てはめにおいて問題文のヒントをふんだんに使うこと(そのための姿勢、文章力、筆力)が重要であると考えます。

募集事項の通知・公告の欠缺を除けば、いずれの論点も司法試験で出題されているため、司法試験過去問との相性が良い問題だったといえます。

 

【民事訴訟法】

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(加藤講師のコメント)

設問1では、訴えの取下げに伴う再訴禁止効が問題となった最判S52.7.19(百A29)に酷似する事案において、訴えの交換的変更の法的性質(当然に旧請求についての訴訟係属が消滅するのか、それとも訴えの取下げ又は請求の放棄を要するのか)及び再訴禁止効が生じる「同一の訴え」の意義が問われており、判例を強く意識した出題であるといえます。

設問2では、訴訟上の和解に実体法上の取消原因がある事案において、和解調書についての既判力の有無・範囲と和解無効の主張方法が問われており、判例よりも学説重視の出題であるといえます。

いずれの論点も典型論点であるものの、論点の組み合わせを上手く整理して答案に反映できるかどうかで差がつきやすい問題であるといえます。

 

【刑法】

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(加藤講師のコメント)

令和5年の刑法は、令和4年と同様、複数の設問からなっており、一方の設問では自説一本で複数の犯罪の成否や論点を問う一方で、他方の設問では1つの犯罪又は論点について多角的に論じることを求めています。令和4年の設問2では、事後強盗既遂罪の成立を否定するための理論構成を3つ論じさせる出題がなされており、令和5年の設問1では、被害者が監禁の事実を認識していなかった場合における監禁罪の成否について可能的自由説と現実的自由説との対立を踏まえながら三者間形式に従って論じさせる出題がなされています。こうした出題傾向は、平成30年以降の司法試験刑事系の傾向を踏襲したものであり、今後も続くと考えられます。

設問1では、被害者が監禁の事実を認識していなかった場合における監禁罪の成否が出題されており、これは平成25年司法試験でも出題されています。

設問2では、①利用処分意思の限界事例(財物自体を利用する意思はなく、財物を破棄・隠匿することにより利益を得ようとする意思を有するにとどまる事例)、②毀棄罪における毀棄概念(毀棄には隠匿や占有喪失も含まれるか)、③被害者を死亡したものと誤認して財物を窃取した場合における占有侵害の認識(故意との関係で死者の占有が論点となる)、④遅すぎた構成要件の実現(ウェーバーの概括的故意)が出題されており、①と②は平成27年司法試験、③は平成29年司法試験において出題されています。

このように、令和5年の刑法は、出題論点と出題傾向のいずれについても、司法試験過去問との相性が良い問題であったといえます。

 

【刑事訴訟法】

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(加藤講師のコメント)

設問1では、逮捕の基礎となった事実に別事実を付け加えて勾留することの可否が出題されており、設問2では、再逮捕の可否が出題されています。

予備試験の刑事訴訟法では、司法試験過去問で出題済みの論点が出題されることが多いですが(H24、H27、H28、H29[訴因を除く]、H30、R3、R4)、その一方で、捜索差押許可状の「罪名」として具体的罰条を記載することの要否(H23)、捜索差押許可状の「差し押さえるべき物」の概括的記載(H23)、捜索差押許可状の「差し押さえるべき物」への該当性(H23)、再勾留の可否(H28)、実質的逮捕論と違法逮捕に引き続く勾留請求の可否(R1)、義務的求釈明と裁量的求釈明の区別(H25、H29)、検察官の釈明内容と異なる事実認定(H25、H29)、ICレコーダーと伝聞法則(H26)、自白の獲得手続に違法がある事案における自白法則と違法収集証拠排除法則(H26)、違法性承継論(H30)、同一構成要件内での明示的択一的認定(H25)、常習傷害罪の事案における一事不再理効の客観的範囲(R2)などのように、その当時はまだ司法試験過去問で出題されていない論点が出題されることもあります。

今回出題された設問1・2における論点はいずれも、司法試験過去問で出題されていない論点です。

予備試験論文は司法試験に比べて出題範囲が広い(その意味で、出題範囲の偏りが強くない)ことを踏まえると、刑事訴訟法についても、司法試験・予備試験過去問で出題されていない論点から出題される可能性に備えた対策もしておく必要があります。

 

【労働法】

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(加藤講師のコメント)

設問1では、入社3年目のBは、A社の海外研修制度に基づく留学に先立ち、「学位取得後は直ちに帰国して職務に復帰すること、帰国後60か月以内に自己都合でA社を退職する場合は海外研修費用の全部又は一部を返還すること」も内容とする誓約書に署名してこれをA社に提出した上で、留学先で学位を取得した後、直ちに帰国して職務に復帰したが、帰国後6か月で自己都合によりA社を退職したという事案において、「A社は、Bに対して、A社が負担した海外研修費用の返還を請求することができるか」が問われています。留学費用返還合意が労基法16条に違反するか否かについて、野村證券事件(東京地判H14.4.16)を参考にした判断枠組みを定立した上で、問題文のヒントを拾いまくるつもりで充実した当てはめを展開する必要があります。問題文には当てはめで使えるヒントが多分にあるため、仮に裁判例や学説の考慮要素を知らなかったとしても、問題文のヒントから逆算して自力で考慮要素を示すのが望ましいです。そうしないと、当てはめの観点が採点者に伝わらないと思います。

設問2では、A社のグループ子会社であるG社の社員Fが他の子会社であるE社の社員Dからセクハラ被害を受けてG社を退職したという事案において、DのFに対する不法行為責任が生じることを前提として、グループ親会社であるA社及びグループ子会社であるG社の退職労働者Fに対する損害賠償責任が問われています。同種事案に関する判例として、イビデン事件最高裁判決(最判H30.2.15・H30重判1)がありますが、本判決を知らなくても解ける問題であり、そのような分析をするのが望ましいです。労働法よりも、民法における判例知識と法律構成力が重視されている問題になっているという印象です。

令和4年には、有期労働契約の更新拒絶における労契法19条の適用を中心として出題されており、この論点は司法試験で複数回出題されている頻出論点です(なお、付随的論点として労契法18条も出題されており、労契法18条と同法19条の組み合わせ問題は、令和4年の司法試験と予備試験のいずれにおいても出題されています。)。

令和5年に出題された論点は、いずれも司法試験過去問で出題されていない論点であり、今後は、司法試験過去問で出題されていない論点からの出題にも備える必要があると考えられます。

 

【民事実務基礎科目】

設問1(1)~(4)では、保証債務履行請求訴訟に関する要件事実(請求の趣旨、訴訟物、請求原因)、設問1(5)では、債権に対する仮差押命令の申立てをするに当たって債務者の自宅不動産の時価を明らかにする必要性が問われています。

設問2では、主債務の発生原因に錯誤があることを理由とする保証人の履行拒絶の抗弁(民法457条3項)の抗弁事実、設問3では、設問2の抗弁に対する法定追認の再抗弁の再抗弁事実が問われています。

設問4(1)では、文書中に本人名義の印影がある場合における二段の推定の前提事実に関する認否、設問4(2)では、準備書面問題(被告名義の印影がある保証契約書を直接証拠として、原告被告間における保証契約締結の事実について、原告側の弁護士が準備書面を作成する問題)が出題されています。

これまでの出題傾向に沿った出題であるため、過去問中心の勉強をするのが望ましいですが、設問1(5)、設問2及び設問3では過去問で出題されていない知識が問われているため、過去問で出題されていない問題について、その場で条文を参照したり(設問1(5))、民事系科目(特に民法、民事訴訟法)で学習した知識を使う(設問2、3)などして自力で解答を導けるようになる必要もあります。

 

【刑事実務基礎科目】

設問1(1)では、ある間接事実αの推認力(Aによる被害品所持に関する間接事実がAの犯人性を推認することについて、近接所持の法理を踏まえて論じる)、設問1(2)では、ある間接事実αだけでは争点たる主要事実を推認するには不十分である理由(Aによる被害品所持に関する間接事実だけではAの犯人性を推認する事実としては不十分である理由について、反対仮説を想定して論じる)が問われており、例年通りの出題であるといえます。

設問2では、被疑者を勾留から解放するための手段の比較検討(勾留理由開示請求、保釈、準抗告)が問われており、複数の手段を比較検討させるという意味で初の出題であるといえます。

設問3では、検察官が送致事実である強盗致傷ではなく窃盗と暴行の公訴事実で起訴した理由について事実認定問として論じさせる問題(強盗罪における「暴行」の程度、危険の現実化としての因果関係)が出題されており、いずれの事実認定も初めての出題ですが、刑法論文の知識だけで解ける問題です(犯人性や共謀のように、刑事実務基礎科目固有の知識を要する要件ではありません。)。

設問4(1)では、検察官面前調書の伝聞証拠該当性と伝聞例外該当性、設問4(2)では、写真について「異議あり。」と述べる証拠意見における異議の法的性質と異議の理由が問われており、これも例年通りの出題であるといえます。

全体の傾向としては、サンプル問題から平成25年までは事実認定重視の問題であった一方で、平成26年から徐々に手続重視の問題に変遷していたものの、令和4年には事実認定重視の問題に戻りました。こうした流れを受けてなのか、令和5年は事実認定重視の問題になっており、平成26年から令和4年まで毎年のように出題されていた公判前整理手続に関する問題(令和1年と令和3年に限り出題なし)も出題されていません。

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加藤ゼミナールは、加藤喬講師が代表を務める予備試験・司法試験のオンライン予備校です。

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加藤ゼミナール代表取締役
加藤 喬かとう たかし
加藤ゼミナール代表取締役
弁護士(第二東京弁護士会)
加藤ゼミナール代表
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院(既修) 卒業
2014年 労働法1位・総合39位で司法試験合格
2021年 7年間の講師活動を経て、「法曹教育の機会均等」の実現と「真の合格実績」の追求を理念として加藤ゼミナールを設立
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