加藤喬の司法試験・予備試験対策ブログ

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令和3年司法試験刑法設問1における強盗罪の成否

令和3年度司法試験の刑法の設問1に関する質問です。
甲及び丙の強盗罪の成否について、甲の脅迫行為は、共犯者の丙に対して、強盗が入ったふりをするという丙との共謀通りにされています。予定通りに実行された甲の行為で丙が畏怖することはないため、甲の脅迫行為は、相手方丙の反抗抑圧状態の惹起に向けられたものとはいえないから、刑法236条1項の「脅迫」にあたらず強盗未遂罪すら成立しないのではないかと疑問を持ちました。このような理論構成は可能でしょうか。

強盗罪における「暴行又は脅迫」は、相手方の反抗を抑圧する手段として行われることが必要です(山口厚「刑法各論」第2版220頁、高橋則夫「刑法各論」第3版274頁)。ひったくり行為について原則として強盗罪の成立が(さらには恐喝罪の成立も)否定され窃盗罪が成立にとどまると解されているのは、原則として反抗抑圧手段としての暴行又は脅迫を欠くからです。これは、平成27年司法試験でも出題されています。

ご指摘の通り、甲による脅迫行為は、丙との間における腕時計が強取されたように装ってこれを窃取するという犯行計画に基づいて、強盗を偽装するための手段として、丙に向けられて行われています。

そうすると、甲の脅迫行為は、丙の反抗を抑圧するための手段として行われていません(丙の反抗抑圧状態の惹起に向けられていません)から、強盗罪における「脅迫」に当たらないことになります。

したがって、甲には強盗未遂罪すら成立しないことになります。これが解答の本筋であると考えられます。

他方で、甲の脅迫行為を準客観的に見れば、丙の反抗抑圧の惹起に向けられているため、反抗抑圧手段性は準客観的に判断するべきであるとして、強盗罪における「脅迫」を肯定するという理論構成も、あり得るかもしれません。

2021年06月01日
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加藤ゼミナールは、加藤喬講師が代表を務める予備試験・司法試験のオンライン予備校です。

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加藤ゼミナール代表取締役
加藤 喬かとう たかし
加藤ゼミナール代表取締役
弁護士(第二東京弁護士会)
加藤ゼミナール代表
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院(既修) 卒業
2014年 労働法1位・総合39位で司法試験合格
2021年 7年間の講師活動を経て、「法曹教育の機会均等」の実現と「真の合格実績」の追求を理念として加藤ゼミナールを設立
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