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心神耗弱事例における間接正犯類似説からの帰結

原因において自由な行為の理論構成として、間接正犯類似説、かつ、限定責任能力に陥った場合にも同法理の適用を肯定するとの立場を採用する場合の処理についてです。
人を殴るための景気付けとして酒を飲み(原因行為)、心神耗弱状態下で殺意を抱いて相手を殴り(結果行為)、相手に重傷を負わせたという事例においては、①原因行為には傷害罪が成立し、②結果行為には殺人未遂罪が成立するが、39条2項により刑が必要的減軽を受ける、との解釈でよろしいでしょうか。
また、仮に上記の解釈が正しい場合には、罪数処理としては、両者は同一の法益に対する侵害であることから包括一罪となるとの解釈でよろしいでしょうか。
ご教示いただければ幸いです。よろしくお願いいたします。

間接正犯類似説は、原因行為を実行行為と捉える見解ですから、ご質問の事例だと、原因行為である飲酒行為を殺人罪の実行行為と捉えることになります(大塚裕史ほか「基本刑法Ⅰ」第3版226頁)。

そして、間接正犯類似説では、実行行為である原因行為時と結果行為時において殺人罪の故意が必要とされます(大塚裕史ほか「基本刑法Ⅰ」第3版227頁。これを、二重の故意といいます)。ご質問の事例では、飲酒行為の時点では暴行又は傷害の故意しかないのですから、二重の故意の問題に言及するまでもなく、実行行為時における殺人罪の故意がないとして、殺人未遂罪の成立が否定され、原因行為と被害者重症との間の因果関係が認められるのであれば(両者間に結果行為が介在しているため、因果関係の有無が論点になります)、原因行為について傷害罪が成立することになります。

さらに、結果行為については、殺人未遂罪が成立し、39条2項の適用により刑が必要的に減軽されます。

上記の傷害罪と殺人未遂罪とでは、被害法益の一体性と行為の一体性が認められるため、包括一罪になると考えられます。

これに対し、ご質問の事例を、行為者が相手方を殺害するための景気づけとして飲酒行為に及んだというものに変更した場合には、実行行為である原因行為時における殺人罪の故意、さらには結果行為時における殺人罪の故意も認められるため、原因行為である飲酒行為について殺人未遂罪が成立し、39条2項の適用による刑の必要的減軽はない、という結論になります。

なお、この場合、結果行為についても殺人未遂罪が成立するが、これについては39条2項の適用による刑法の必要的減軽があるとすることは、二重評価になるため、結果行為についての殺人未遂罪は原因行為について成立する殺人未遂罪に吸収されることなり別途成立することはない、という帰結になると思われます。

2021年04月25日
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加藤ゼミナールは、加藤喬講師が代表を務める予備試験・司法試験のオンライン予備校です。

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加藤ゼミナール代表取締役
加藤 喬かとう たかし
加藤ゼミナール代表取締役
弁護士(第二東京弁護士会)
加藤ゼミナール代表
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院(既修) 卒業
2014年 労働法1位・総合39位で司法試験合格
2021年 7年間の講師活動を経て、「法曹教育の機会均等」の実現と「真の合格実績」の追求を理念として加藤ゼミナールを設立
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