加藤喬の司法試験・予備試験対策ブログ

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共謀の射程の検討における物理的因果性の位置づけ

刑法の共謀の射程について質問があります。
大塚裕史ほか「基本刑法Ⅰ総論」第3版373頁によると、「共謀の射程は当初の共謀と実行行為の間に因果関係(特に心理的因果性)が認められるかという問題に帰着するという見解が有力である」とあります。また、警察学論集70巻10号166頁によれば共謀の射程が及んでいるか否かは、共謀と実行行為・結果惹起の間に心理的因果性が認められるか否かによって判断することになるとあります。そうすると、共謀の射程の検討においては物理的因果性については検討することはできないのでしょうか。心理的因果性にのみ着目して、客観面には着目しなくてもよいのか気になったので質問させていただきました。

共同正犯の因果性の理解の仕方によって異なると思います。

共犯の因果性には、実行担当者による結果実現を強化・促進するという心理的因果性と実行担当者の犯行実現を容易にし結果惹起を促進するという物理的因果性とがあります(橋爪隆「刑法総論の悩みどころ」初版355頁)。心理的因果性の本質を意思連絡に基づき実行担当者による結果実現を心理的に強化・促進することに求めた上で(橋爪隆「刑法総論の悩みどころ」初版356頁)、共同正犯の因果性として意思連絡による心理的因果性の存在が不可欠であると理解するのであれば、「共同正犯関係からの離脱」の場面では、心理的因果性の遮断が認められる一方で物理的因果性が残存している場合については共同正犯関係からの離脱を肯定することになります(佐伯仁志「刑法総論の考え方・楽しみ方」初版383頁・390頁)。なお、実行着手前に共同正犯関係からの離脱が認められても、別途、幇助犯が成立する余地があります(幇助の因果性として心理的因果性は不可欠ではないと理解されているため)。

このように、共同正犯の因果性として意思連絡による心理的因果性の存在が不可欠であると理解するのであれば、「共謀の射程」の場面でも、心理的因果性が及んでいるかにより判断することになり、道具提供等により犯行を物理的に容易にしているという点は、これを通じて犯意を強化・促進したと評価できる範囲で心理的因果性を基礎づけるものとして評価されることになると思われます。

例えば、甲と乙が、Aを包丁で刺して殺害することについて共謀し、乙が甲から手渡された包丁を持ってA宅に向かったところ、Aがいなかったため、A殺害を断念し、帰宅しようとしたが、その途中、Bと口論になって包丁で刺してBを殺害したという事案では、B殺害について共謀の心理的因果性は及びませんが、包丁を使っている点で物理的因果性があるため、物理的因果性さえ及んでいれば「共謀に基づく実行行為」ありとして「共謀の射程」を肯定しても構わないと理解すると、甲には殺人罪の共謀共同正犯が成立する余地があり、結論の妥当性を欠きます(正犯性なしとして共謀共同正犯を否定する余地もありますが)。そこで、「共謀の射程」の場面でも、心理的因果性が一切ない場合には、物理的因果性だけをもって「共謀に基づく実行行為」ありと評価するべきではないと考えます。

2020年10月13日
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加藤ゼミナールは、加藤喬講師が代表を務める予備試験・司法試験のオンライン予備校です。

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加藤ゼミナール代表取締役
加藤 喬かとう たかし
加藤ゼミナール代表取締役
弁護士(第二東京弁護士会)
加藤ゼミナール代表
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院(既修) 卒業
2014年 労働法1位・総合39位で司法試験合格
2021年 7年間の講師活動を経て、「法曹教育の機会均等」の実現と「真の合格実績」の追求を理念として加藤ゼミナールを設立
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