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間接正犯は実行行為と正犯性のいずれの問題か

間接正犯の成否は、実行行と正犯性のいずれの問題なのでしょうか。基本書等によって間接正犯の体系上の位置づけが異なるように思えるので、質問させて頂きました。

間接正犯は、本来的には、正犯性の問題です(大塚裕史「基本刑法Ⅰ」第3版309頁、山口厚「刑法総論」第3版67頁以下、高橋則夫「刑法総論第3版422頁」)。山口厚「CRIMINAL LAW刑法」第3版40頁では、「直接正犯と間接正犯とは、(正犯の)構成要件該当性が認められる事例での、内部的な事実上の区別にすぎない。ここで、外形的には実行行為がないのに、いかなる場合に、自手実行がある場合と同視しうるのかが問題となるのである」とされています。つまり、甲が乙に指示をして乙に万引きをさせたという事例では、甲又は乙のいずれかを正犯とする窃盗罪の構成要件該当性が認められることまでは確定しており(したがって、窃盗罪の実行行為があることも確定している)、ただ、外形的には甲が窃盗罪の実行行為をやっていないように見えるので(逆に言えば、外形的には乙が窃盗罪の実行行為をやっているようにも見えるので)、窃盗罪の実行行為を自ら行ったものとして正犯になるのは甲と乙のいずれであるのかを確定する必要があるというのが、間接正犯の正犯性の議論であるということです。

もっとも、被害者を利用した事例では、間接正犯を実行行為”性”の問題として論じることになります。例えば、甲が乙に命令して自殺を強制したという事例では、外形的に見ても、被害者乙による殺人罪の実行行為があったとはいえません(乙は、乙に対する殺人罪の主体にはなり得ないからです)。ここが、利用者乙による実行行為を観念することができる、被害者以外の第三者を利用した事例(甲が乙に指示をして乙に万引きをさせたという事例)との違いです。被害者乙による実行行為を観念する余地がない以上、「甲又は乙のいずれかを正犯とする殺人罪の構成要件該当性が認められることまでは確定しており(したがって、殺人罪の実行行為があることも確定している)、ただ、外形的には乙が殺人罪の実行行為をやっているようにも見えるので、殺人罪の実行行為を自ら行ったものとして正犯になるのは甲と乙のいずれであるのかを確定する必要があるという」という問題意識にはなりません。そのため、「甲が被害者乙に命令したことは、殺人罪の実行行為たり得るか」(つまり、そもそも殺人罪の実行行為を認める余地があるのか)という問題意識に基づき、実行行為”性”の問題として間接正犯を論じることになります。なお、実行行為”性”と実行行為とは厳密には異なる概念です。

ここでいう実行行為”性”とは、実行行為の前提条件という意味です。間接正犯の成立要件(正犯意思+道具性)をクリアすることで間接正犯としての殺人罪の実行行為”性”が認められたとしても、その直後に、別途、甲が被害者乙に自殺を命じたこと(利用者標準説を前提とした表現)が殺人罪の実行行為に当たるかについて検討する必要があります。利用者標準説に立っても、被害者にやらせた行為(厳密には、被害者にやらせようとしていた行為)が構成要件的発生の現実的危険性を有することが必要です。利用者標準説は、「利用行為⇒被利用者の行為による結果発生」の自動性・確実性を根拠として、本来的であれば被利用者の行為の段階に留保されている結果発生の現実的危険性を利用行為の段階に前倒しする、という考えです。なので、利用行為が実行行為に当たるというためには、その危険性を前倒すことになる利用者の行為について、構成要件的結果発生の現実的危険性が認められる必要があるわけです。

2020年09月11日
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加藤ゼミナールは、加藤喬講師が代表を務める予備試験・司法試験のオンライン予備校です。

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加藤ゼミナール代表取締役
加藤 喬かとう たかし
加藤ゼミナール代表取締役
弁護士(第二東京弁護士会)
加藤ゼミナール代表
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院(既修) 卒業
2014年 労働法1位・総合39位で司法試験合格
2021年 7年間の講師活動を経て、「法曹教育の機会均等」の実現と「真の合格実績」の追求を理念として加藤ゼミナールを設立
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