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早すぎた構成要件の実現における上位規範と下位規範の関係

最一小決平成16・3・22・百Ⅰ64は、早すぎた構成要件の実現の事例について、「第1行為は第2行為に密接な行為であり、・・第1行為を開始した時点で既に殺人に至る客観的な危険性な明らかに認められる」場合には「第1行為を開始した時点・・において殺人罪の実行の着手があった」としており、この上位規範への該当性を判断する際の下位規範として、㋐「第1行為は第2行為を確実かつ容易に行うために必要不可欠なものであったといえる」か、㋑「第1行為に成功した場合、その以降の殺害計画を遂行する上で障害となるような特段の事情が存しなかった」といえるか、及び㋒「第1行為と第2行為との間の時間的場所的近接性」という3要素を用いています。㋐㋑㋒をすべて満たした場合、①「第1行為は第2行為に密接な行為である」ことと②「第1行為を開始した時点で既に殺人に至る客観的な危険性な明らかに認められる」ことという上位規範をいずれも満たすことになるのでしょうか。㋐㋑㋒を満たすことで①②という2つの要件を満たすということには、少し違和感があるので、質問させて頂きました。

最一小判平成30・3・22の山口厚裁判官の補足意見は、クロロホルム事件・最一小決平成16・3・22・百Ⅰ64を参照した上で、①実行行為との密接性と②既遂結果発生の客観的な危険性の双方を満たす行為に着手した時点に未遂犯における「実行に着手」が認められると述べています。そして、①と②の関係性について、「相互に関連させながらも、それらが重畳的に求められている趣旨を踏まえて検討することが必要である。特に重要なのは、無限定な未遂罪処罰を避け、処罰範囲を適切かつ明確に画定するという観点から、上記の「密接性」を判断することである」と述べているため、①と②を一応区別しています。

もっとも、①と②とは、相互に関連するものですから、①の検討における事実の摘示・評価が②の検討において相当程度流用されることになります。そのため、㋐㋑㋒のうち、ここからここまでが①に対応する要素であり、ここからが②に対応する要素であるように、㋐㋑㋒という単位で①と②に対応する事実を分類することはできないと思います。このことに、クロロホルム事件最高裁決定では㋐㋑㋒を満たすとの理由から①と②の双方が認定されていることも併せ考慮すると、早すぎた構成要件の実現事例においては、㋐㋑㋒を満たすとの理由から①と②の双方を一気に認定して構わないと考えます。

2020年09月10日
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加藤ゼミナールは、加藤喬講師が代表を務める予備試験・司法試験のオンライン予備校です。

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加藤ゼミナール代表取締役
加藤 喬かとう たかし
加藤ゼミナール代表取締役
弁護士(第二東京弁護士会)
加藤ゼミナール代表
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院(既修) 卒業
2014年 労働法1位・総合39位で司法試験合格
2021年 7年間の講師活動を経て、「法曹教育の機会均等」の実現と「真の合格実績」の追求を理念として加藤ゼミナールを設立
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