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権利抗弁と事実抗弁の区別

秒速・総まくり及び秒速・過去問攻略講座では、権利抗弁と事実抗弁の区別については、「延期的・一時的抗弁権は権利抗弁、永久的抗弁は事実抗弁」という区別の仕方をするとありますが、そのような理由付けで区別する場合、形成権が権利抗弁になる理由や過失相殺・狭義の一般条項が事実抗弁になる理由が説明できないように思えてしまうのですが、どのように考えればいいのでしょうか。

権利抗弁と事実抗弁の区別については、①権利抗弁は「権利者による訴訟上での権利行使の意思表示」を必要とするものであるとする見解(髙橋宏志「重点講義  民事訴訟法  上」第2版補訂版450~451頁、「民事訴訟法判例百選」事件51解説2(2))と、②権利抗弁は「権利者による権利行使の意思表示」を必要とするものであるとして、権利行使の意思表示の必要性を「訴訟上」におけるものに限定しない見解があります(和田吉弘「基礎からわかる民事訴訟法」初版263~264頁、三木浩一ほか「リーガルクエスト民事訴訟法」第3版225~226頁)。秒速・総まくり及び秒速・過去問攻略講座で採用している延期的・停止的抗弁権か永久的抗弁権かで区別する見解は、①を前提とするものです。

髙橋宏志「重点講義  民事訴訟法  上」第2版補訂版450~451頁は、㋐取消権・解除権・建物買取請求権などの私法上の形成権は、訴訟で初めて行使される場合には、その旨の意思表示が必要であり権利抗弁である、㋑催告・検索の抗弁、同時履行の抗弁、留置権の抗弁も権利抗弁である、㋒対抗要件の抗弁も権利抗弁であるとして、権利抗弁を3つに分類する見解について、㋐については「訴訟外又は訴訟前に行使されていた場合には、その事実については通常の抗弁(事実抗弁)と同じとなり、訴訟内での意思表示は必要ではない。その意味では、真正でない権利抗弁だとも言いうる」として批判しています。ここから、髙橋宏志「重点講義  民事訴訟法  上」第2版補訂版450~451頁では、権利抗弁を「権利者による訴訟上での権利抗弁の意思表示」を必要とするものに限定し、訴訟外又は訴訟前における権利行使の有無により権利抗弁であるかどうかの結論が変化する私法上の形成権については真正な権利抗弁ではないとする理解に立っているといえます。

①に属する延期的・停止的抗弁権か永久的抗弁権かで区別する見解は、権利抗弁の基礎となる抗弁権の実体法的性質だけに着目して、権利抗弁と事実抗弁を区別しようとする見解です(「民事訴訟法判例百選」事件51解説2(2))。これに対し、②の見解は、私法上の形成権については訴訟外又は訴訟前における権利行使の有無により(つまり、権利行使の方法により)権利抗弁該当性を判断するという意味で、権利行使の方法も考慮する見解です。

権利抗弁と事実抗弁の区別に関する司法試験委員会の考えは、出題趣旨・採点実感で明らかにされていませんが、私は、使いやすさ・分かりやすさから、①に属する延期的・停止的抗弁権か永久的抗弁権かで区別する見解を採用しています。

以上を前提として、ご質問に回答いたします。まず、①の見解からは、私法上の形成権=権利抗弁という関係になるわけではありません(例えば、平成21年司法試験で出題された建物買取請求権は、行使方法を問わず、事実抗弁です)。また、過失相殺は、原告の請求を原告の過失割合の限度で永久的に否定するものですから、①の見解から、事実抗弁であると説明することになります。狭義の一般条項についても、同様です。例えば、公序良俗違反については、原告が請求原因として主張する契約(債権的請求の発生原因など)を無効ならしめ、原告の請求を永久的に否定するものですから、①の見解から、事実抗弁であると説明することになります。

2020年09月10日
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加藤ゼミナールは、加藤喬講師が代表を務める予備試験・司法試験のオンライン予備校です。

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加藤ゼミナール代表取締役
加藤 喬かとう たかし
加藤ゼミナール代表取締役
弁護士(第二東京弁護士会)
加藤ゼミナール代表
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院(既修) 卒業
2014年 労働法1位・総合39位で司法試験合格
2021年 7年間の講師活動を経て、「法曹教育の機会均等」の実現と「真の合格実績」の追求を理念として加藤ゼミナールを設立
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