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特定物売買の買主が明確に受領を拒絶している場合

特定物引渡債務の債務者が履行を提供しても債権者が明確に受領を拒絶しているような場合、「債務の履行が・・社会通念に照らして不能」(412条の2)ということで、履行不能といえるのでしょうか。「Law practice 民法II」 第4版の解説では、それを前提にしている(そのような問題に536条2項を適用しているため)と感じましたが、一方で、種類債権は当該種類物が生産停止になったり在庫がすべて滅失したりしない限り履行不能に陥ることは観念できないはずだという認識でしたので、そこに疑問を感じました。例えば、潮見先生の『プラクティス民法 債権総論」第5版〕』24頁も、制限種類債権との比較において、「通常の種類債権では種類に属する物すべてがなくなるということは、めったに起こらないから、履行不能が生じる場合はきわめてまれであるとされる。」と説明しています。また、それが履行不能だとすると、「415条2項や542条1項が、「履行不能」と「明確な受領拒絶」を区別して規定していることはどう説明すればよいのか。わざわざ「明確な受領拒絶」を「履行不能」とは別の要素として想定しているからには、「明確な受領拒絶があっても一概に履行不能とはいえない」ということになるのでは、と考えました。文献等を参照してもよく分からず、加藤先生にご回答頂ければ幸いです。

まず、明確な受領拒絶は、社会通念上の履行「不能」には該当しないと思います。潮見佳男ほか「詳解改正民法」初版124頁では、社会通念上の不能の例として、債務の履行のために必要な費用とそれによって実現される債権者の利益との間に著しい不均衡がある場合(事実的不能)と債務の履行が法的に禁止される場合(法律的禁止)が挙げられている一方で、明確な受領拒絶又はこれに準じる事態は挙げられておりません。また、ご指摘の通り、415条2項や542条1項が不能と履行拒絶を区別して規定していることとも整合しません。

次に、売主が履行の提供をしているが買主が明確に受領を拒絶しているという事案では、受領遅滞の法的性質に関する債務不履行責任説からは受領義務違反になりますから、受領義務違反を理由として債務不履行責任を追及することができます。もっとも、受領義務は給付義務ではありませんから、受領義務に関する給付訴訟を提起⇒債務名義取得⇒強制執行という方法をとることはできません。受領義務違反を理由とする債務不履行責任を背景として受領義務の履行を促すということまでしかできません。法定責任説から例外的に信義則上の引取義務が認められる場合でも同様です。

さらに、先履行特約がなければ、売主が債務の本旨に従った履行の提供をしたことにより、買主は同時履行の抗弁を失うことになります。したがって、受領義務の存否にかかわらず、売主は代金支払請求訴訟を提起し、同時履行の抗弁権に対しては訴え提起後の履行の提供の再抗弁を主張し(学説上争いあり)、勝訴判決を通じて債務名義を取得して、強制執行をかけるということが可能です(再抗弁を否定する見解になっても、引換給付判決を取得できますから、強制執行可能です・民事執行法31条1項参照)。このように、代金債権について強制執行をかけることができるので、目的物引渡債務の履行不能がどういった形で問題になるのかが分かりません(受領拒絶をしている債権者が目的物引渡債務の履行不能を主張するのでしょうか。)。

ここまでが、基本書・解説書の記述を前提として回答できることです。これ以上は、私が回答できる範疇を超えますので、回答を控えさせていただければと思います。

2020年09月08日
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加藤ゼミナールは、加藤喬講師が代表を務める予備試験・司法試験のオンライン予備校です。

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加藤ゼミナール代表取締役
加藤 喬かとう たかし
加藤ゼミナール代表取締役
弁護士(第二東京弁護士会)
加藤ゼミナール代表
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院(既修) 卒業
2014年 労働法1位・総合39位で司法試験合格
2021年 7年間の講師活動を経て、「法曹教育の機会均等」の実現と「真の合格実績」の追求を理念として加藤ゼミナールを設立
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