加藤喬の司法試験・予備試験対策ブログ

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改正民法下における債務不履行に基づく損害賠償請求権の消滅時効の客観的起算点

平成19年司法試験短答式・民事系第6問で、「債務不履行による損害賠償請求権の消滅時効は、本来の債務の履行を請求することができるときから進行する。」という肢があります。債権法改正に対応したLECの「体系別短答過去問題集」の解説では、最二小判平成10・4・24を根拠に、◯であるとしています。しかし、債権法改正において、債務転形論が否定されたこととの関係で、現在ではこの判例法理は妥当性を失っているのではないかと思いました。履行不能に基づく債務不履行による損害賠償請求権は、本来の請求権の転形したものではなく、別個のものであるという見解を前提にすれば、損害賠償請求権が生じた時点が消滅時効の起算点となる、という見方になるのではないでしょうか。

最二小判平成10・4・24は、「契約に基づく債務について不履行があったことによる損害賠償請求権は、本来の履行請求権の拡張ないし内容の変更であって、本来の履行請求権と法的に同一性を有すると見ることができるから、債務者の責めに帰すべき債務の履行不能によって生ずる損害賠償請求権の消滅時効は、本来の債務の履行を請求し得る時からその進行を開始するものと解するのが相当である」として、履行不能による損害賠償請求権の消滅時効の起算点について、履行不能による損害賠償請求権は本来の履行請求権が同一性を維持しつつ姿を変えたものにすぎないとの理由から、本来の債務の履行を請求し得る時であると解していました(山本敬三「民法講義Ⅰ 総則」第3版569頁)。

債務転形論は、「履行請求権と填補賠償請求権との関係について、履行不能により前者が後者に転化するものとすることで、原則として、履行請求権と填補賠償請求権は併存しないものと解釈」する考えであり、これが改正前民法下における判例及び伝統的理論であると理解されています(「民法(債権関係)部会資料5-2」民法(債権関係)の改正に関する検討事項(1)詳細版22頁参照)。最二小判平成10・4・24は、「契約に基づく債務について不履行があったことによる損害賠償請求権は、本来の履行請求権の拡張ないし内容の変更であって、本来の履行請求権と法的に同一性を有すると見ることができる」ことを理由にしているため、債務転形論を前提として、履行不能による損害賠償請求権の消滅時効の起算点について本来の債務の履行を請求し得る時であると解していると理解することになると思われます。

改正民法下では、履行に代わる損害賠償請求(填補賠償請求権)の手続的要件として、契約解除が必須の要件とはされていないものの、履行請求権が否定される場合が想定されています(新415条2項各号)から、債務転形論が完全に否定されているわけではないと思います。そのため、改正民法下でも、「履行不能によって生ずる損害賠償請求権の消滅時効は、本来の債務の履行を請求し得る時からその進行を開始する」という判例理論が維持されることになると思います。改正法に対応した沖野・窪田・佐久間「民法演習サブノート210問」32問の解説でも、「2020年8月1日、AB間でA所有のフクロウ甲を売買する旨の契約を締結し、AがBに甲を引き渡したところ、甲が契約前から罹患していた病気を原因として死亡した」という事案について、BのAに対する債務の履行に代わる損害賠償請求権(415条2項1号)の消滅時効の客観的起算点は本来の債務(病気に罹患していない甲を引き渡す債務)の履行請求権の消滅時効の起算点(初日不算入ゆえ2020年8月2日)であるとされています。

2020年09月08日
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加藤ゼミナールは、加藤喬講師が代表を務める予備試験・司法試験のオンライン予備校です。

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加藤ゼミナール代表取締役
加藤 喬かとう たかし
加藤ゼミナール代表取締役
弁護士(第二東京弁護士会)
加藤ゼミナール代表
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院(既修) 卒業
2014年 労働法1位・総合39位で司法試験合格
2021年 7年間の講師活動を経て、「法曹教育の機会均等」の実現と「真の合格実績」の追求を理念として加藤ゼミナールを設立
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