加藤喬の司法試験・予備試験対策ブログ

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積極目的又は財政目的に基づく狭義の職業選択の自由に対する制約については、目的審査と手段審査の厳格度が異なるのか

積極目的又は財政目的に基づく狭義の職業選択の自由に対する規制については、薬事法判決によれば「重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置」であることが要求される一方で、「許可制に比べて職業の自由に対するよりゆるやかな制限である職業活動の内容及び態様に対する規制によっては右の目的を十分に達成することができないと認められること」は要求されないと思います。このように、目的審査と手段審査とで厳格度が異なることは、許されるのでしょうか。

例えば、酒類販売免許制事件判決(最三小判平成4・12・15・百Ⅰ94)は、酒類販売業の免許制について、①薬事法事件大法廷判決(最大判昭和50・4・30・百Ⅰ92)を参照して、「一般に許可制は、・・狭義における職業選択の自由そのものに制約を課するもので、職業の自由に対する強力な制限であるから、その合憲性を肯定し得るためには、原則として、重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であることを要する」と述べる一方で、②当該免許制は「租税の適正かつ確実な賦課徴収を図るという国家の財政目的」に基づくものであり、「総合的な政策判断」及び「極めて専門技術的な判断」が必要であるとの理由から、「必要性と合理性についての立法府の判断が、右の政策的、技術的な裁量の範囲を逸脱するもので、著しく不合理なものでない限り」合憲であると述べています。このように、規制目的と規制手段とで要求されるハードルの高さがずれています。

職業規制に関する判例を違憲審査基準論ではなく、判例の立場であると理解されている利益較量論に従って理解するのであれば、積極目的又は財政目的に基づく狭義の職業選択の自由に対する規制については、規制目的と規制手段とで要求されるハードルの高さがずれることになります。最高裁は違憲審査の枠組みとして利益較量論に立っており、違憲審査基準っぽい基準を定立することもありますが、それは大きな枠組みである利益較量による判断の指標として言及されているにとどまります(堀越事件・最二小判平成24・12・7・百Ⅰ14 千葉勝見裁判官の補足意見参照)。利益較量論だからこそ、規制目的と規制手段とで要求されるハードルの高さが異なることも許容されるわけです。

これに対し、学説の違憲審査基準論に従って理解するのであれば、ご指摘の通り、目的審査と手段審査とで厳格度を一致させる必要がありますから、判例のように規制目的と規制手段とで要求されるハードルの高さが異なるということは許されません。この点については、職業規制が出題された平成26年司法試験の採点実感でも、「定立した審査基準と、目的審査において求められる正当性のレベルがかみ合っていないものが多かった。例えば、厳格な合理性審査を採りながら、目的が「正当」であればよいと記述している答案などである。」として批判されています。

司法試験委員会は「保障⇒制約⇒違憲審査基準の設定⇒当てはめ」を違憲審査の基本的な枠組みであると理解しています(平成28年~令和1年司法試験の出題趣旨・採点実感参照)から、学説が違憲審査基準を採用している領域では、利益較量論に立っている判例を「違憲審査基準の定立・適用」という枠組みに引き直して理解・使用することになります。したがって、答案では、薬事法判決を「違憲審査基準の定立・適用」という枠組みに引き続き直して論じることになります。

2020年09月07日
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加藤ゼミナールは、加藤喬講師が代表を務める予備試験・司法試験のオンライン予備校です。

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加藤ゼミナール代表取締役
加藤 喬かとう たかし
加藤ゼミナール代表取締役
弁護士(第二東京弁護士会)
加藤ゼミナール代表
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院(既修) 卒業
2014年 労働法1位・総合39位で司法試験合格
2021年 7年間の講師活動を経て、「法曹教育の機会均等」の実現と「真の合格実績」の追求を理念として加藤ゼミナールを設立
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