加藤喬の司法試験・予備試験対策ブログ

質問コーナー

伊藤塾の入門講座だけで合格するだけの実力を身に付けられるか

先生は度々伊藤塾講座について良さを指摘されていると思いますが、実際のところ伊藤塾講座のみで合格するだけの力を十分につけることは本当に可能なのでしょうか。
自分は伊藤塾ユーザーですが、勉強を進めるにつれて懐疑心が強くなりました。論文講義では問題文の読み上げと模範解答ありきの思考過程を飛ばした解説、模範解答へのマーキングのみで授業が終わることすらほぼ毎回です。その内容自体もTwitterでよく叩かれているのを目にします。
これについて競合他社としての視点からお話いただきたいです。

結論から申し上げるが、全体的には内容面に問題はなく、合格レベルに到達できますし、民事系・刑法なら上位を目指すことも可能だと思いますが、科目ごとに弱点があるのも事実ですから、その弱点を理解して補う勉強もするのが無難であると考えます。

伊藤塾は、講師によってばらつきがありますが、呉先生、本田先生は、教え方も丁寧であり、法律と試験に対する理解も深いため、基礎固めをする上で有益であると考えています。

ただし、学説選択や答案の書き方という点で現行の試験傾向に対応しきれていないことと、情報が古いという問題もあります。実際、アガルート、加藤ゼミナールの利用者が多いのは、伊藤塾で基礎講義を終えたあたりで物足りなさや不安を感じ、予備試験論文や司法試験論文の対策のために中上級者向け講座を受講するという方が多いからです。

伊藤塾の内容だけで問題なく合格答案、上位答案を書くことができる問題もありますが、他方で、伊藤塾が独特な学説選択をしていたり、答案の書き方に対応できていなかったり、最新情報を反映していなかったりする部分が出題されることもあるでしょう。この意味で、出題の内容に左右されるリスクがそれなりにあります。

科目ごとに、次のことを確認してみましょう。あくまでも一例にすぎませんが、参考までに。

憲法で、厳格審査基準、中間審査基準、合理的関連性の基準の具体的な意味内容について整理して、説明されているか。また、生存権、財産権といった特殊な人権についても、答案の書き方を説明してくれているか。部分社会論から学説の外在的制約論にシフトしたと理解されている市議会議員出席停止事件(最大判令和2年11月25日)がテキストに掲載されているか。

行政法で、処分性について、土地区画整理事業決定の処分性を認めた平成20年判決の判例理論と病院開設中止勧告の処分性を認めた平成17年判決の判例理論について、明確に区別した上で説明がなされているか(これが分からないと、例えば平成30年の予備試験の問題はほぼ解答できません。)。裁量基準について、3つの問題類型(裁量基準に従った場合、裁量基準に違反した場合、裁量基準が絡まない場合)ごとに処理手順を説明しているか(これが分からないと、予備試験も司法試験も解けないです。)。

民法で、平成29年改正法を前提とした論点整理がなされているか、94条2項類推適用の範囲を意思的関与がある場合からこれと「同視し得るほど重い」帰責性の場合にまで拡張した平成18年判決の論証が掲載されているか(令和4年司法試験でも正面から問われています)、動機の錯誤について「動機の明示」だけを要件とする間違った規範になっていないかなど。

商法では、最新判例がちゃんと反映されているか、利益相反取引の類型ごとの説明があるかなど。

民事訴訟法で、既判力について、取消権行使の可否などの論点に偏った解説をするのではなく(既判力の分野では論証を張り付ける問題はかなり稀です)、いかなる場合に既判力が作用するかなど、論点以前のことについて深く丁寧な説明がなされているかなど。

刑法で、因果関係に関する危険の現実化説について判例の事案類型ごとに説明されているか(さらには、行為の危険性・介在事情の危険性・異常性の3つを考慮するという古い下位規範になっていないか。この記述は昔流行りましたが、基本刑法Ⅰ第2版で改められています。)、予期された侵害の急迫性が否定される場面を積極的加害意思よりも広げた最高裁平成29年決定の論証も掲載されているか、「実行に着手」について危険性と実行行為との密接性の2点から判断する最高平成30年判決の論証が掲載されているかなど。

刑事訴訟法で、「強制の処分」に関する重要権利利益実質的侵害説の理由付けが「科学的捜査・・・」だけになっていないか(司法試験の出題趣旨・採点実感では、強制処分法定主義や令状主義の趣旨などから規範を導くように指摘がある)、任意捜査の限界について「①必要性、②緊急性、③相当性」という間違った規範になっていないか、逮捕に伴う無令状捜索・差押えで相当説(合理説)を採用しているか、「公訴事実の同一性」には単一性で判断される場合と狭義の同一性で判断される場合に分類されるという整理になっているか(単一性かつ狭義の同一性という整理は明らかな間違いです)。

それから、論文講座について言えば、「ここの論証は記憶して下さい」と言い10行前後にわたってマーカーの指示をしたり(むしろ説明するべきは、論証を10行から5行まで圧縮する方法です)、答案を読み上げるだけで答案の書き方、思考プロセスを説明しないというのであれば、本当の意味での実力は付かないと思います。

私が伊藤塾に対して持っているイメージは、入り口部分の説明はとても分かりやすいし、呉先生と本田先生あたりは論点と試験に対する理解が深いので大変信頼できる一方で(答案の文章も美しく、大変読みやすいです)、先生ごとに教え方や実力にばらつきがある上に、入口レベルの勉強を終えると物足りなさや不安を感じるのではないかと思います。

伊藤塾を批判しているつもりはありません。母校だからということではなく、実際に毎年、入門講座の受講者から多くの予備試験合格者を排出しているからです。ただ、足りないところがあるのであれば、それを埋める必要があるということです。

2023年04月13日
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加藤ゼミナールは、加藤喬講師が代表を務める予備試験・司法試験のオンライン予備校です。

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加藤ゼミナール代表取締役
加藤 喬かとう たかし
加藤ゼミナール代表取締役
弁護士(第二東京弁護士会)
加藤ゼミナール代表
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院(既修) 卒業
2014年 労働法1位・総合39位で司法試験合格
2021年 7年間の講師活動を経て、「法曹教育の機会均等」の実現と「真の合格実績」の追求を理念として加藤ゼミナールを設立
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