加藤喬の司法試験・予備試験対策ブログ

訴因変更の可否に先立って訴因変更の要否を論じるべきか?

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検察官が訴因変更請求をしている場面では、『訴因変更の可否』だけが問題となり、『訴因変更の要否』は問題となりません。

裁判所が訴因変更請求を許可するための要件として、訴因変更が必要であること(=従来の訴因と変更後の訴因との間に、訴因変更を必要とするだけの事実の変動があること)は不要だからです。つまり、検察官から訴因変更請求があった場合、仮に訴因変更を必要とするだけの事実の変動がなくても、「公訴事実の同一性」(312条1項)を満たしさえすれば、訴因変更請求は許可されます。

例えば、令和1年司法試験設問2の採点実感では、『下線部②の訴因変更の請求について、裁判所はこれを許可すべきか。」という問題設定であったことから、「本事例は、検察官が既に訴因変更を請求しているのだから、業務上横領罪の訴因のまま、詐欺罪の認定をしてよいかという訴因変更の要否の問題ではなく、業務上横領罪から詐欺罪への訴因変更ができるか、すなわち、両者の間に「公訴事実の同一性」(刑事訴訟法第312条第1項)が認められるかという訴因変更の可否が問題となる事案である。訴因変更の可否を論ずる前提として、訴因変更の要否を論じることが誤りとまでは言えないものの、訴因変更の要否を長大に論じる一方、訴因変更の可否についての論述が極めて薄い(あるいは論述がない)答案などは、訴訟手続の中で、訴因変更の要否と可否がそれぞれどのような場面で問題となるのかについての理解が不十分であると言えよう。』と指摘されています。

基礎問第40問では、基礎問第39問と異なり、現に検察官から訴因変更請求が行われた状況下において『裁判所は訴因変更請求を許可すべきか』という点が問われているため、端的に、訴因変更の可否だけを論じることになります。

これに対し、基礎問第39問(平成26年司法試験設問3改題)のように、『訴因変更の要否』→『訴因変更の可否』という流れで、『訴因変更の可否』に先立って『訴因変更の要否』を論じるべき場合もあります。それは、公判前整理手続や訴訟手続の過程で検察官が主張・立証の方針を変更しようとしている状況下において、そのために『検察官が講じるべき措置』が問われている場合です。

この場合、訴因と検察官の心証との間に訴因変更を必要とするだけの違いがなかったとしても、「公訴事実の同一性」(312条1項)が認められるのであれば、訴因変更請求が許可されるため、検察官としては、訴因変更の要否にかかわらず、訴因変更請求をするのが望ましいといえます。もっとも、訴因変更を要しないのであれば、訴因を変更することなく心証事実について有罪判決を得られるのですから、検察官にとって、有罪判決を得るうえで、訴因を変更することは必要的ではありません。この意味において、訴因変更が必要である場合に初めて、訴因変更のための『措置を講じるべき』だといえます。

したがって、基礎問第39問では、『訴因変更の可否』に先立って、『訴因変更の要否』を論じることになります。

そして、訴因変更が必要であるとの結論に達した場合、『訴因変更の可否』の検討に進み、(1)「公訴事実の同一性」が認められるならば『訴因変更請求をするべきである。』、(2)「公訴事実の同一性」を欠くとならば『追起訴により訴因を変更するべきである。』と結論付けることになります。

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加藤ゼミナールは、加藤喬講師が代表を務める予備試験・司法試験のオンライン予備校です。

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加藤ゼミナール代表取締役
加藤 喬かとう たかし
加藤ゼミナール代表取締役
弁護士(第二東京弁護士会)
加藤ゼミナール代表
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院(既修) 卒業
2014年 労働法1位・総合39位で司法試験合格
2021年 7年間の講師活動を経て、「法曹教育の機会均等」の実現と「真の合格実績」の追求を理念として加藤ゼミナールを設立
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