窃盗罪の成立要件の1つとして、客体が他人が占有する財物であること(以下、「【他人の占有】要件」といいます。)が挙げられます。
235条は、窃盗罪の客体として「他人の財物」と定めていますが、ここでいう「他人の」とは他人が所有権を有することを意味します(基本刑法Ⅱ第3版112頁、山口各論第2版177頁・15))。したがって、【他人の占有】要件を「他人の」という文言に位置付けることはできません。
山口各論第2版177頁・15)における「他人が財物の占有を有することは「窃取」から導かれ…」という記述を表面的に参考にしたからなのか、【他人の占有】要件を「窃取」という文言に属する要件として理解している人が一定数います。
しかし、犯罪の客観的構成要件は主体・客体・行為・結果・因果関係に分類されるところ、「窃取」は行為に対応する文言ですから、客体に関する【他人の占有】要件を「窃取」という文言に属する要件として理解するのは、理論体系に反しているように思えます。
また、山口総論第2版177・5)では、「他人が財物の占有を有することは「窃取」から導かれ…」とは書かれているものの、【他人の占有】要件が「窃取」という文言に属する要件であるとまでは書かれていません。
【他人の占有】要件、「他人の財物」及び「窃取」の関係については、❝ 窃盗罪の客体である「財物」は、占有移転を内容とする「窃取」の対象となる物であるから、他人の占有に属することを要する。❞という内容で理解するべきであると考えます。したがって、【他人の占有】要件は、「財物」という文言に属するものとして理解することになります。
基本刑法Ⅱ第3版112頁でも、そのように説明されています。
❝ 本罪の客体は「他人の財物」である…。「他人の」というのは他人が所有権を有することを意味する。もっとも、「他人の財物」は「窃取」の対象となる物であり、窃取とは「他人が占有する」財物を占有者の意思に反して自己または第三者に移転させることをいうので、「他人の財物」は他人が占有する財物でなければならない(この点は、窃盗罪の保護法益に「占有」が含まれるかどうかという議論とは全く無関係である)。したがって、「他人の財物」とは「他人が占有する他人の所有物」を意味することになる。 ❞(基本刑法Ⅱ第3版112頁)
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❝ 学説の中には「他人の占有」を「窃取」という要件の中で検討する考え方もある。しかし、「窃取」とは、財物の占有を自己または第三者に移転させる行為をいうので、他人が財物を占有していなければそもそも窃取行為を行うことはできない。「他人の財物」という要件が、窃取行為の客体である以上、他人の所有物は「他人が占有する」ものでなければならない。占有の有無を「他人の財物」という要件の中で検討することによって、窃盗罪と占有離脱物横領罪を「客体」の段階で区別することが可能となる。 ❞(基本刑法Ⅱ第3版112頁)
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