私は、憲法の論文講座において、規制→中間目的→究極目的という構造になっている法令の違憲審査では、職業規制の場合には究極目的を規制目的と捉えて違憲審査基準の定立及び目的手段審査をするべきであるが、それ以外の場合(思想良心の自由、信教の自由、表現の自由、学問の自由など)には原則として中間目的を規制目的と捉えるべきであると説明しています。
職業規制の違憲審査基準の厳格度は、規制の態様と規制の目的の2点を考慮して当該規制に関する立法裁量の広狭を明らかにすることにより決定されます。この意味において、規制の目的も、立法裁量の広狭に影響する一事情として、違憲審査基準の厳格度に影響をします。そして、立法府がある法令を制定するに当たって、どれくらいの立法裁量が認められるのか(つまり、どれくらい専門技術的判断や政策的判断が必要とされるのか)は、究極目的によって決まります。仮にそうでないと、例えば、薬事法事件のように、適正配置規制(規制)→過当競争による一部の薬局の経営不安定化の防止(中間目的)→不良医薬品の供給防止(究極目的)という構造の場合に、中間目的が積極目的であるため専門技術的判断が多分に要請されるとの理由から、違憲審査基準を緩やかにすることになってしまいますが、それは不合理です。
これに対し、職業規制以外(思想良心の自由、信教の自由、表現の自由、学問の自由など)では、基本的には人権の性質と規制の態様を考慮して違憲審査基準の厳格度を決定するため(人権の性質と規制の態様の2点から当該規制に関する立法裁量の広狭を明らかにします)、立法目的は違憲審査基準の厳格度に影響しません。そうである以上、究極目的を規制目的として捉える必要はありません(※この説明だけでは、究極目的を規制目的として捉える必要がないというだけであり、究極目的を規制目的と捉えるべきではないとまでは言えません。)。
職業規制以外では、理論上は、目的手段審査において、中間目的を規制目的(立法目的)と捉えることも可能ですし、究極目的を規制目的と捉えることも可能です。どちらの捉え方をしても、目的手段審査において、規制→中間目的→究極目的というプロセスの検証がなされるからです。
例えば、平成28年司法試験で出題された性犯罪者継続監視法は、継続監視(規制)→性犯罪者の再犯防止(中間目的)→地域社会の安全確保&性犯罪者の社会復帰促進(究極目的)という構造であるところ、規制目的を性犯罪者の再犯防止(中間目的)と捉えた場合には、目的審査では「性犯罪者の再犯防止→地域社会の安全確保&性犯罪者の社会復帰促進」というプロセスの検証が行われ、手段審査では「継続監視→性犯罪者の再犯防止」というプロセスの検証が行われます。これに対し、規制目的を地域社会の安全確保&性犯罪者の社会復帰促進と捉えた場合には、目的審査では「地域社会の安全確保&性犯罪者の社会復帰促進」自体の評価を行い、手段審査では「継続監視→性犯罪者の再犯防止→地域社会の安全確保&性犯罪者の社会復帰促進」というプロセスの検証をすることになります。
このように、理論上はいずれの構成も可能なのですが、平成28年司法試験の問題文でもそうであるように、通常は、問題文では、「性犯罪者の再犯防止のために、性犯罪者継続監視法が制定された」というように、中間目的を規制目的(立法目的)として記載しています。そうである以上、問題文のヒントに従った構成としては、中間目的を規制目的として捉えることになります。
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