加藤喬の司法試験・予備試験対策ブログ

任意処分の適法性判断

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最高裁昭和51年決定(最決S51.3.16・百1)は、任意処分の適法性判断について、「強制手段にあたらない有形力の行使であつても、何らかの法益を侵害し又は侵害するおそれがあるのであるから、状況のいかんを問わず常に許容されるものと解するのは相当でなく、必要性、緊急性なども考慮したうえ、具体的状況のもとで相当と認められる限度において許容されるものと解すべきである。」と判示しています。

上記の要旨の中に「必要性」「緊急性」「相当」という3つのキーワードが登場することから、十数年前は、任意処分の適法要件を①必要性②緊急性③相当性の3要件で整理している合格者答案が少なくなかったです。

しかし、「必要性」「緊急性」「相当」という3つのキーワードは並列的な要件ではありません。

少なくとも司法試験・予備試験対策としては、上記の要旨については、比例原則の適用から、必要性と法益侵害とを比較衡量して「相当と認められる」か否かを吟味するものであると理解するべきです。

つまり、「相当」性が上位規範であり、その有無について、必要性と法益侵害とを比較衡量して両者間の合理的権衡が保たれているか否かによって判断するということです。

例えば、平成27年司法試験の出題趣旨及び採点実感では、次のように説明されています。

  ” 強制処分に至らない任意処分であっても、当然に適法とされるわけではなく、一定の許容される限界があり、その許容性の判断に当たっては、いわゆる「比例原則」から、具体的事案において、特定の捜査手段により対象者に生じる法益侵害の内容・程度と、捜査目的を達成するため当該捜査手段を用いる必要性との間の合理的権衡を吟味することになる。前記昭和51年最決も、強制手段に当たらない有形力の行使について、「何らかの法益を侵害し又は侵害するおそれがあるのであるから、状況のいかんを問わず常に許容されるものと解するのは相当でなく、必要性、緊急性なども考慮したうえ、具体的状況のもとで相当と認められる限度において許容される」と判示している “(出題趣旨)

  ” 任意処分…の許容性の判断においては、「必要性、緊急性なども考慮したうえ、具体的状況のもとで相当と認められる限度」(前記最決昭和51年)かどうかが吟味されることになる。この判断は、いわゆる「比例原則」に基づくものであり、個別具体的事案において、当該捜査手段により対象者に生じる法益侵害の内容・程度と、捜査目的を達成するため当該手段を用いる必要性との合理的権衡を欠いていないか、両者の比較衡量によって行われるから、実際の判断に当たっては、設問の事例に現れた具体的事実がその判断枠組みにおいてどのような意味を持つのかを意識しながら、一方で、当該捜査手段によりどのような内容の法益がどの程度侵害されるのかを具体的に明らかにしつつ、他方で、対象となる犯罪の性質・重大性,捜査対象者に対する嫌疑の程度、当該捜査によって証拠を保全する必要性・緊急性に関わる具体的事情を適切に抽出して当該捜査手段を用いる必要性の程度を検討し、それらを総合して結論を導く必要がある。しかし、判断基準については、前記最高裁判例の判示に表れる「必要性」、「緊急性」、「相当性」というキーワードを平面的に羅列するにとどまり、「具体的状況のもとで相当と認められる」かどうかの判断構造の理解が十分とはいえない答案も見られた。”(採点実感)

「相当」性は必要性と法益侵害とを比較衡量して判断するものですから、必要性と法益侵害の双方について、存否だけでなく程度(重み)も明らかにする必要があります。

ここでいう「必要性」とは、「捜査目的を達成するため当該捜査手段を用いる必要性」を意味し(平成27年司法試験の出題趣旨・採点実感)、「必要性」の程度を基礎づけるものとしては、不可欠性(当該行為を行うことが捜査目的達成のために欠かすことができない)、補充性(他の方法によっては捜査目的を達成できない)、緊急性(「いまやっておく必要がある」という時間的な意味)などが挙げられます(リーガルクエスト刑事訴訟法第2版37頁)。判例講座刑事訴訟法〔捜査・証拠篇〕初版13頁でも、「緊急性というのは、ある捜査行為が捜査目的の達成のために必要なものであることを前提に、それをその時点で行わなければ目的を達成できないことを意味しており、広い意味での必要性を基礎づける一要素と位置付けることができる。」と説明されています。

このように、「緊急性」は、「必要性」から独立した要素に位置付けられるものではなく、「必要性」の程度に関する着眼点の1つに位置付けられるわけです。なので、緊急性については、必ず言及しなければいけないというわけではありません。もっとも、平成27年司法試験の採点実感では、秘密録音の事案において、「特に、本件の場合、「会話は直ちに録音して保全しなければ消失してしまうこと」が録音の必要性(「緊急性」)を基礎づける有力な一事情となり得るが、そのような点にまで注意を払って論じられていた答案は少数にとどまった。」とあるため、録音の事案では緊急性にも言及するべきです(撮影の事案でも、同様であると考えます。)。

任意処分の適法性判断については、平成27年と平成30年の司法試験の出題趣旨・採点実感が参考になりますから、一読なさることをお薦めいたします。

その上で、基礎問題演習テキスト第3問の参考答案を読んで頂くと、正しい当てはめをイメージできると思います。

参考答案はこちらからご覧ください

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加藤ゼミナールは、加藤喬講師が代表を務める予備試験・司法試験のオンライン予備校です。

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加藤ゼミナール代表取締役
加藤 喬かとう たかし
加藤ゼミナール代表取締役
弁護士(第二東京弁護士会)
加藤ゼミナール代表
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院(既修) 卒業
2014年 労働法1位・総合39位で司法試験合格
2021年 7年間の講師活動を経て、「法曹教育の機会均等」の実現と「真の合格実績」の追求を理念として加藤ゼミナールを設立
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