再現実況見分調書の立証趣旨を「被告人の犯行の物理的可能性」とする場合における要証事実

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被告人を立会人とする再現実況見分調書(被告人の説明部分・写真部分を含む)は、司法試験で頻出であり、平成21年、平成25年及び令和5年に出題されています。

この点について詳細な解説がなされている基本書・演習書がほとんどないため、問題構造をちゃんと理解できている人は少ないと思います。

再現実況見分調書の立証趣旨を「被告人の犯行の物理的可能性」とする場合における推認過程は、次の通りです。

①実況見分調書(説明・写真部分を含む)
..
②犯行再現状況(犯行再現実験の結果等)
..
③被告人の犯行の物理的可能性
..
④被告人による犯行

そうすると、実況見分調書の直接の立証事項という意味での要証事実は、③被告人の犯行の物理的可能性ではなく、②犯行再現状況です。

そして、②犯行再現状況は、立会人である被告人が知覚・記憶・表現・叙述した事実としてではなく、見分者(調書作成者たる捜査機関)が知覚・記憶して調書に表現・叙述した事実として要証事実となっています(百83・解説4参照)。

この要証事実との関係において、犯行再現状況に関する見分者の知覚・記憶・表現・叙述の真実性が問題となりますが、この点に関する伝聞性は、実況見分調書全体の性質と同様、刑訴法321条3項により解消されるものです。

したがって、実況見分調書中の被告人の説明部分・写真部分は、被告人を原供述者とする実況見分調書全体の性質から独立した伝聞証拠に当たるのではなく、見分者を原供述者とする実況見分調書と一体のものとして刑訴法321条3項により伝聞性が解消される伝聞証拠に当たるにとどまります。

このように、実況見分調書中の被告人の説明部分・写真部分については、伝聞証拠に当たるか否かではなく、実況見分調書全体の性質から独立した伝聞証拠に当たるか否かが問題となっているわけです。

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講師紹介

加藤 喬 (かとう たかし)

加藤ゼミナール代表取締役
弁護士(第二東京弁護士会)
司法試験・予備試験の予備校講師
6歳~中学3年 器械体操
高校1~3年  新体操(長崎インターハイ・個人総合5位)
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院(既修) 卒業
労働法1位・総合39位で司法試験合格(平成26年・受験3回目)
合格後、辰已法律研究所で講師としてデビューし、司法修習後は、オンライン予備校で基本7科目・労働法のインプット講座・過去問講座を担当
2021年5月、「法曹教育の機会均等」の実現と「真の合格実績」の追求を理念として加藤ゼミナールを設立

執筆
・「受験新報2019年10月号 特集1 合格
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