典型論点については、受験生の多くが事例から抽出して論じることができるため、論点に言及できたかどうかという低い次元のところではなく、その論点をどう論じたかという論じ方の次元で合否(さらには合否順位)が決まります。
現行試験では問題文のヒントで主要論点が誘導されるため、例えば短答合格者で民法94条2項類推適用を落とす受験生はほとんどいません。
民法94条2項類推適用を論じる際には、特に次の点に気を付ける必要があります。
直接適用を否定する
民法94条2項類推適用の論証に入る前、又は論証の中で、通謀や虚偽の意思表示がないために民法94条2項の直接適用が認められないことを指摘する必要があります。
民法94条2項類推適用の場合に限ったことではありませんが、原則・例外という論点ないし論証の構造をちゃんと明示する必要があります。
類推適用はあくまでも例外であり、直接適用をすることができないからこそ、例外則としての類推適用の可否が顕在化するわけです。
権利外観法理の記述で3要件を網羅する
民法94条2項類推適用説の理由付けの核をなす権利外観法理の記述において、3要件に対応するキーワード(虚偽の外観、真正権利者の帰責性、第三者の信頼)が網羅している必要があります。
例えば、権利外観法理について「取引安全を保護する」だとか「虚偽の外観を信頼した第三者を保護する」という記述をするだけでは、①不実登記、②不実登記作出についての真正権利者の帰責性及び③第三者の信頼を要件として民法94条2項類推適用を認めるという解釈を導くことはできません。
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3要件の検討順序を守る
3要件については、①不実登記→②不実登記作出についての真正権利者の帰責性→③第三者の信頼という流れで流れで論じる必要があります。
要件検討には論理的な順序というものがあります。
②における帰責性は①不実登記の作出についての帰責性ですから、①を論じた後でなければ②を論じることができません。また、②における帰責性の大小に応じて③の信頼における無過失の要否が変わるため、②を論じた後でなければ③を論じることができません。
したがって、①→②→③という流れで論じることになります。
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信頼とは不実登記を信じたことを意味する
③における信頼とは、不実登記を信頼したこと、すなわち、不実登記を見て不実登記により公示されているとおりの権利関係の存在を信じたことを意味するという正しい理解を前提として、③の当てはめをする必要があります。
民法94条2項の趣旨は権利外観法理にあり、同条2項の類推適用説は不実登記に対する信頼を保護するための理論構成です。
したがって、同条2項類推適用説において保護するべき信頼とは、不実登記に対する信頼、すなわち不実登記を見て不実登記により公示されているとおりの権利関係の存在を信じたことを意味することになります。
よって、当てはめでは不実登記を見て信頼したのかということを検討することになる上、不実登記を見ていない者の信頼は保護の対象外ということになります。
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