刑法の論文学習で大事なことは、次の3つです。
1つ目は、条文・論点の学習において、刑法の理論体系を意識するということです。
刑法の理論体系は、行為無価値論的見解からは、客観的構成要件(主体、客体、行為、結果、因果関係)→主観的構成要件(故意、主観的違法要素)→違法性(≒違法性阻却事由の不存在)→有責性(責任能力、責任故意、期待可能性)→刑罰権の発生(客観的処罰条件、一身処罰阻却事由)→刑の免除・減軽(心神耗弱、中止犯、過剰防衛など)と整理されます。
条文、論点ごとに、どこでどのように問題になるのかを明確にしながら理解・記憶しましょう。
例えば、強盗利得罪における処分行為の要否に関する論点が強盗利得罪の客観的構成要件である客体・行為・結果のうちどこでどのように問題になるのかを正しく理解している受験生は、多くないと思います。
2つ目は、判例・学説の規範を正しく事例に適用できるようになるために、規範の意味を正しく深く学習するということです。
例えば、因果関係に関する「行為の危険性が結果へと現実化した…」という危険の現実化説の規範(さらには下位規範)は、多くの受験生が答案に書くことができます。だからこそ、規範を書いて、適当に当てはめをするだけでは、他の受験生に差をつけることはできません。判例の事案類型を踏まえた当てはめをすることができるかという、もう一歩先のレベルのことで差をつける必要があります。そのためには、判例の事案類型ごとの当てはめの仕方を学ぶことを通じて、危険の現実化の規範を正しく適用できるようにしておく必要があるわけです。
危険の現実化はほんの一例であり、間接正犯の正犯性、不真正不作為犯の実行行為性、正当防衛の成立要件、「実行に着手」の判断基準、中止犯の成立要件、共同正犯の成立要件、窃盗罪における占有の存否、事後強盗罪における窃盗の機会、詐欺罪における処分行為の有無…などの重要論点についても同様です。
3つ目は、学説対立をはじめとする多角的検討に対応できる知識を身に付けるということです。
当初は、司法試験でも予備試験でも、自説だけで答案を書ける出題がなされていましたが、近年は、反対説や自説以外の理論構成(=自説と同じ結論を導ける自説以外の法律構成を意味します。)まで出題される傾向が強いです。
司法試験では平成30年から多角的検討を求める出題がスタートし、予備試験では令和4年から多角的検討を求める出題がスタートしました。
多角的検討を求める出題には2パターンあり、1つ目は、自説とは異なる結論を導く反対説まで問う学説対立問題であり、2つ目は、同じ結論を導くための理論構成を複数検討させる問題です。
前者では反対説に関する知識が、後者では自説とは異なる理論構成に関する知識が必要となります。
以上が、刑法の論文学習のコツです。
参考にして頂けたらと思います。
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