加藤喬の司法試験・予備試験対策ブログ

明日から司法試験を受験する皆様へ

いよいよ、明日から司法試験が始まります。

新型コロナウィルス感染症の感染状況と緊急事態宣言中であることを踏まえ、今年も試験会場に立たないことにしました。

そこで、明日から司法試験を受けてくる皆様に、私からメッセージを送らせて頂きたいと思います。

 

論文全科目に共通する重要事項


論文試験で留意するべきことは多岐に渡りますが、特に優先順位が高いものが以下の7つです。

この7つは、最低限、守って頂きたいと考えております。

(1)自信をもって臨む

自信がないと、問題文を読んだ後のファーストインプレッションを信じることができず、深読みしすぎてしまう危険があります。

論点Aが問題になっているという心象を頂いたものの、この心象を信じることができず深読みしすぎた結果、問われていない論点Bを書いてしまうなどです。

自分を追い込むのは、試験前日までです。

試験当日は、これまで司法試験に向けて勉強をしてきた自分を信じて、自信を持って問題を解いて欲しいと思います。

(2)設問の指示・誘導に従う

大きな問いと小さな問いの関係、論述の形式、論述の方向性などについて、ちゃんと確認し、従う必要があります。

これを全科目で出来るだけでも、相対評価においてだいぶ上に行くことができます。

例えば、「Aは、本件土地賃貸借契約を解除することができるか、【事実】16の下線を付した①及び②の事実がそれぞれ法律上の意義を有するかどうかを検討した上で、理由を付して解答しなさい。」という平成29年司法試験民法設問2では、「Aは、本件土地賃貸借契約を解除することができるか、…理由を付して解答しなさい。」が大きな問いであり、「【事実】16の下線を付した①及び②の事実がそれぞれ法律上の意義を有するかどうかを検討した上で…」が大きな問いに解答する過程で言及するべき事柄の一つについて指示をしている小さな問いである、という整理になります。

それから、「主張→反論→自身の見解」「主張→当否」といった論述の形式、「Xらはどのような違法事由を主張すべきか」という論述の方向性にも気を付ける必要があります。

(3)現行司法試験では、引っ掛けは極めて稀である

旧司法試験合格者の講師の中には、「ヤマが当たったと思った時には別のことが問われていることが多い」というアドバイスをする方がいます。

旧司法試験ではそうかもしれませんが、少なくとも現行司法試験では、引っ掛けで篩にかけるということは極めて稀ですから、ファーストインプレッションを信じて構いません。

旧司法試験では論文試験の倍率が5~10倍であるため、どう書いたかだけでなく、何を書いたかという次元でも受験生を篩に掛ける必要があったのだと思います。

これに対し、現行司法試験では、論文試験の倍率が2倍程度である上、書き方が重視されていることからしても、解答の入り口で受験生を篩に掛けるという考えは弱いと思われます。

(4)現場思考問題における対処法

現場思考問題では、頭の中で元ネタになっているであろう判例・裁判例や学者論文、法科大学院の授業内容を検索するのではなく、まずは問題文に立ち返り、何についてどう論じることが求められているのかについて確認します。

現場思考問題では、問題文のヒントから出題者が求めている当てはめの内容及び方向性を把握しやすいことが多いです。その場合、問題文のヒントから出題者が求めている当てはめを把握して、その当てはめをすることができる規範を理由とともに導くというように、当てはめから逆算して抽象論を導くという思考過程を辿ると、論証を導きやすいです。

(5)特定の科目・問題の出来不出来ではなく、8科目全体・答案全体の出来を重視する

まず、特定の科目で「失敗した(かもしれない)」と思うことがあったとしても、引きずらないようにしましょう。

それ以降の科目の試験中にも前の科目のことを気にしていると、集中力が低下して、普段通りの答案を書くことができない危険もあります。

また、それ以降の科目で高得点を出して挽回しようとして無理に背伸びをしても、普段通りの答案を書くことができない危険もあります。例えば、分量を増やすために答案構成の時間を短縮した結果、解答の入り口で間違えてしまうなどです。

前の科目における不出来を、それ以降の科目に波及させないようにする必要があります。

次に、科目単位で答案全体の出来を重視するという姿勢も重要です。

例えば、何を書けばいいのか分からない設問で立ち止まりすぎた結果、何を書けばいいのかが分かる設問について書く時間が無くなってしまうという事態に陥らないよう、分からない設問に時間を書けすぎないという勇気が必要です。

また、書けそうな設問に時間を書けすぎてしまい、他の設問に時間を書けることができなくなるという事態を避けるために、書けそうな設問で書きすぎないという勇気を持つことも必要です。

(6)減点方式ではなく加点方式である

現行司法試験の論文試験では、加点方式が採用されている上、文章力・思考力も重視されていると思われるため、正解筋から外れた論述をすることを恐れて何も書かないよりも、外れても構わないからそこそこ正確な法知識を使ってそれっぽい抽象論を構築して当てはめを書いたほうが点が入ります。

なので、問題文のヒントに気が付いたら、どう法律構成すればいいのかが分からなくても、法知識と文章力・思考力を総動員して条文を出発点として何らかの抽象論を構築し、当てはめに入りましょう。

また、規範を忘れてしまったという場合でも、規範定立を飛ばさないで、不正確でも構わないので規範を書いたほうが良いです。

規範定立をすれば、法的三段論法に従った答案の形式を守ることができますし、採点者に対して事実評価の前提となっている法的観点も伝わるので、一定の加点を見込めます。

さらに、憲法で判例に言及する際も、引用や使い方に関する正確性に囚われすぎないようにしましょう。よほどおかしな引用や使い方をしない限り、ちゃんと加点されます。

(7)取捨選択をする際には大きめの配点項目を優先的に拾う

取捨選択をする際には、大きめの配点項目を優先的に拾うべきです。

配点項目は、大・中・小に分類することができます。

平成29年までの刑法であれば、大:罪名、中:理論体系・犯罪成立要件・論点、小:事実の摘示・評価となります。

大きめの配点項目を落とした場合、その分だけ大きく失点することになりますから、出来るだけ、小さめの配点項目を捨てたり簡潔に切り上げることで大きめの配点項目を網羅できるようにする必要があります。

司法試験の論文試験は、限られた時間をどのように使うことで効率的に配点項目を網羅することができるかという、点取りゲームっぽい側面が強いです。

 

科目ごとに試験本番で留意すること


以下は、試験本番で最低限留意して頂きたいことです。

(1)憲法

    • 近年の司法試験では、被侵害権利として取り上げるべき人権、規制ごとの規制目的、規制の仕組み(何のために、何を、どう規制するのか)、規制の問題点について、問題文で分かりやすく誘導してくれていますから、人権選択から目的手段審査による当てはめに至るまで、何をどう論じるべきかについて問題文のヒントに従って考えることが極めて重要です。
    • 近年の司法試験では、保障→制約→違憲審査基準の定立→当てはめ(目的手段審査)という違憲審査の基本的な枠組みが重視されていますから、問題文のヒントと参考判例を違憲審査の枠組みに落とし込んで答案で使いまくりましょう。特に、問題文のヒントについては、使い方が分からなくても、なんとかして違憲審査の枠組みを前提とした答案にねじ込みましょう。
    • 判例理論に引きずられすぎないようにしましょう。例えば、判例は利益較量論に立っているため、判例を答案で使う際には学説の違憲審査基準論に引き直してから使う必要があります。また、論文試験で求められているのは法令や処分の憲法適合性の検討であるため、論文試験では法令や処分の憲法適合性に関する結論を直接的に導くことができる判断枠組みを用いる必要がありますから、判例が裁量論により適法・違法についてしか判断していない事案であっても、裁量論ではなく違憲・合憲の結論を直接的に導くことができる判断枠組み(通常は、保障→制約→違憲審査基準の定立→当てはめによる目的手段審査)を用いる必要があります。

(2)行政法

    • 設問及び会議録における解答の形式・方向性に関する指示・誘導に注意しましょう。
    • 重要な指示・誘導は、問題文で出てきたら、その都度、構成用紙にメモするようにしましょう。
    • 処分の違法事由の検討において、法律構成が分からなくても、行政裁量や要件解釈による規範定立など、何らかの法律構成を示しましょう。事実の摘示・評価は、法律構成という皿の上でしなければ、ほぼ評価されません。大事なことは、法律構成の内容ではなく、法律構成を示した上で事実の摘示・評価をするという論述の形式です。
    • 前半で書きすぎないようにしましょう。常に、答案全体の出来を優先してましょう。

(3)労働法

    • 第1問・第2問の時間配分に気をつけましょう。開始1~2分で各問題にざっと目を通し、点の取りやすさや所要時間等を確認した上で、第1問に入るというのもありです。
    • 労働法では、人によっては、時間ではなく紙面が足りなくなることもあるので、基本7科目に比べて字を小さくしたり詰めて書くなどの工夫を要することもあります。
    • 規範を失念しても、とりあえず、規範を書きましょう。論文試験の採点方式は原則として減点方式ではなく加点方式ですから、書かないよりも書いたほうが点に繋がります。規範を書かないと、いかなる法的観点に従って事実を摘示・評価しているのかが読み手に伝わりませんので、間違った規範でも構いませんから書いた方が点に繋がります。
    • 近年、毎年のように、第2問では、現場思考論点が出題されています。もっとも、難しいことは問われておらず、問題文のヒントから問題の所在と当てはめを把握して、求められている当てはめをすることができるような規範をその場ででっち上げることにより、合格水準の答案を書くことができます。

司法試験は、文系最高峰の国家試験であり、受験資格を得るだけでも膨大な時間・費用を要するうえ、受験回数制限まであります。

自分の可能性を信じることができたからこそ、受験を決断し、合格に向かって今日まで本気で勉強してこれたわけです。

人生のいついかなる場面においても全力を尽くして下さいとは言えませんが、人それぞれ、人生の中で、ここは絶対にやり切らなければいけない時があります。

今年、司法試験を受験される皆さんにとっては、今がその時です。

明日からの5日間、やり切りましょう。

とにかく、最後まで受け切ることです。

皆様の健闘をお祈り申し上げます。

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加藤ゼミナールは、加藤喬講師が代表を務める予備試験・司法試験のオンライン予備校です。

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加藤ゼミナール代表取締役
加藤 喬かとう たかし
加藤ゼミナール代表取締役
弁護士(第二東京弁護士会)
加藤ゼミナール代表
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院(既修) 卒業
2014年 労働法1位・総合39位で司法試験合格
2021年 7年間の講師活動を経て、「法曹教育の機会均等」の実現と「真の合格実績」の追求を理念として加藤ゼミナールを設立
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