加藤喬の司法試験・予備試験対策ブログ

刑法で「人ごと」と「行為ごと」のどちらで書くべきか

0

刑法で「人ごと」と「行為ごと」のどちらで書くべきかについては、原則として、自分にとって書きやすいほうを選択すればいいと思います。

どちらで書いても理論的に問題がない場合がほとんどですし、自分にとって書きにくい構成を選択すると、上手く書けない結果として読みにくい答案になります。

私は、「行為ごと」に書く場合には、㋐甲乙で違いがない行為については、甲乙をまとめて書く、㋑甲乙で違いがある行為については、人ごとに分けて書くとともに、甲と乙の関与対応に応じて「甲→乙」「乙→甲」という書き方を使い分ける、という構成が書きやすいと思います。

以下の事例を使って、上記の書き方について具体的に説明いたします。

(事例)

1.甲と乙は、Aに対して暴行・傷害を加えることについて合意し、両名でAの顔面を手拳で殴打し、Aに顔面打撲の怪我を負わせた。

2.甲は乙に対して、「B方に侵入してB方内の金品を盗みたいから、手伝ってほしい。取り分として盗んだ金品の半分をやる。」と申し向け、これに対し、乙は「分かった。B方のトイレの窓がいつも開いているから、そこから侵入すればいい。俺もB方前に行き、見張っている。」と答えた。甲は、乙とともにB方前まで行き、V方にトイレの窓から侵入し、V方内のリビングにあった現金10万円の入った封筒をズボンのポケットに入れてB方を出て、乙を合流し、封筒に入っていた10万円のうち5万円を乙に渡した。

3.乙は甲に対し、「今度は、俺の頼みを聞いて欲しい。Cから自転車を貸してもらうことになっているから、C方前に無施錠で置かれているC所有の自転車を自宅まで運んでほしい。Cには既に連絡をして、了承を得ている。」と言い、これに対し、甲は「分かった。さっきのお礼に引き受けるよ。」と言った。甲は、乙から言われたことを信じたまま、C方前まで行き、そこに無施錠で置かれているC所有の自転車に乗り、乙方までこれを運転し、乙方前で乙に引き渡した。

(答案)

第1.Aに対する傷害罪

 刑法60条でいう「共同して犯罪を実行した」とは、共謀とそれに基づく実行行為を意味する。

 甲と乙は、Aに対して暴行・傷害を加えることについて合意することにより共謀し、両名でAの顔面を手拳で殴打するという暴行を実行したのだから、少なくとも暴行罪(208条)について「共同して…実行した」といえる。両名の暴行により、Aは顔面打撲という生理機能障害たる「傷害」を負ったのだから、甲と乙は傷害罪(204条)についても「共同して…実行した」といえる。

 したがって、甲と乙にはAに対する傷害罪の共同正犯が成立する。

第2.B方での住居侵入・窃盗

1.甲の罪責

 甲は、窃盗目的で「人の住居」たるB方に無施錠のトイレの窓から「侵入」し、「他人の財物」であるB所有の現金10万円の入った封筒をズボンのポケットに入れることで「窃取」している。

 したがって、甲には、Bに対する住居侵入罪(130条前段)及び窃盗罪(235条)が成立する。後記2の通り、乙との共同正犯となる。

2.乙の罪責

 住居侵入罪及び窃盗罪の実行行為を担当していない乙には、同罪の共謀共同正犯が成立しないか。

 …略…(共謀共同正犯の肯否及び要件に関する論証+当てはめ)

 したがって、乙にはBに対する住居侵入罪及び窃盗罪の共同正犯が成立する。

第3.C所有の自転車の窃盗

1.乙の罪責

 甲が「他人の財物」であるC所有の自転車に乗り、乙方まで運転したことによりこれを「窃取」したことは、窃盗罪の客観的構成要件に該当する。

 乙は、上記の窃盗罪の実行行為を行ったものとして本罪の正犯に当たるか。乙は甲に頼んで甲に上記行為を行わせており、自ら直接に窃盗罪の実行行為を行っていないことから、間接正犯の成否が問題となる。

 …略…(間接正犯の肯否及び要件に関する論証+当てはめ)

 したがって、乙にはCに対する窃盗罪の間接正犯が成立する。

2.甲の罪責

 甲は、乙から言われたことを信じていたため、C所有の自転車をC方前からB方まで運ぶことによる占有移転がCの意思に反することについて認識していないから、「窃取」の認識を欠くとして、窃盗罪の「故意」(38条1項本文)を欠く。

 したがって、甲には、Cに対する窃盗罪の直接正犯のみならず、幇助犯(62条1項)も成立しない。

第4.罪数処理

 …略…

(解説)

Aに対する傷害罪については、甲と乙との間で、成立する犯罪も犯罪の成否の検討過程も同じであるため、両者を分けて書く実益がありません。したがって、まとめて書きます。

Bに対する住居侵入罪・窃盗罪については、甲と乙との間で、関与態様の違いから犯罪の成否の検討過程が異なるため、両者を分けて書きます。そして、実行行為を直接行った者から先に書くのが通常ですから、甲から先に書き、その後に、乙について書きます。

Cに対する窃盗罪については、甲と乙との間で、犯罪の成否の結論が異なるため、両者を分けて書くことになります。そして、間接正犯が成立する場合、被利用者は直接正犯にならないと理解されていることからしても、間接正犯の成否が問題となる乙から先に書きます。なお、Bに対する住居侵入罪・窃盗罪については甲から先に書く一方で、Cに対する窃盗罪については乙から先に書くというように、行為ごとに書く順序(誰から書くか)が異なっても問題ありません。

以上が、刑法で「人ごと」と「行為ごと」のどちらで書くべきかについての私の考えです。

講義のご紹介
もっと見る

コメントする

コメントを残す

コメントをするには会員登録(無料)が必要です
※スパムコメントを防ぐため、コメントの掲載には管理者の承認が行われます。
※記事が削除された場合も、投稿したコメントは削除されます。ご了承ください。

加藤ゼミナールは、加藤喬講師が代表を務める予備試験・司法試験のオンライン予備校です。

kato portrait
加藤ゼミナール代表取締役
加藤 喬かとう たかし
加藤ゼミナール代表取締役
弁護士(第二東京弁護士会)
加藤ゼミナール代表
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院(既修) 卒業
2014年 労働法1位・総合39位で司法試験合格
2021年 7年間の講師活動を経て、「法曹教育の機会均等」の実現と「真の合格実績」の追求を理念として加藤ゼミナールを設立
質問コーナーのカテゴリ
ブログ記事のカテゴリ