令和1年司法試験刑法論文の現実的な上位答案を公開いたします。
想定順位200~400位(62~65点)、約2200文字(1文字あたり26~28文字)です。
出題趣旨・採点実感では難しいこと・細かいことが色々と書かれていますが、振り回されてはいけません。
まずは、今回公開する答案を目指しましょう。
現実的な上位答案から、「記憶する抽象論の長さ・正確性」(インプットの水準)や「簡にして要を得た文章の書き方」を掴んで頂きたいと思います。
答案はこちら
以下では、今回の答案を作成した際の思考過程について説明いたします。
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令和1年司法試験刑法・設問1
(問題)
〔第1問〕(配点:100)
以下の【事例1】から【事例3】までを読んで、後記〔設問1〕から〔設問3〕までについて、答えなさい。
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【事例1】
甲(男性、25歳)は、他人名義の預金口座のキャッシュカードを入手した上、その口座内の預金を無断で引き出して現金を得ようと考え、某日、金融庁職員に成りすまして、見ず知らずのA(女性、80歳)方に電話をかけ、応対したAに対し、「あなたの預金口座が不正引き出しの被害に遭っています。うちの職員がお宅に行くのでキャッシュカードを確認させてください。」と告げ、Aの住所及びA名義の預金口座の開設先を聞き出した。
同日、甲は、キャッシュカードと同じ形状のプラスチックカードを入れた封筒(以下「ダミー封筒」という。)と、それと同種の空の封筒をあらかじめ用意してA方を訪問し、その玄関先で、Aに対し、「キャッシュカードを証拠品として保管しておいてもらう必要があります。後日、お預かりする可能性があるので、念のため、暗証番号を書いたメモも同封してください。」と言った。Aは、それを信用し、B銀行に開設されたA名義の普通預金口座のキャッシュカード及び同口座の暗証番号を記載したメモ紙(以下「本件キャッシュカード等」という。)を甲に手渡し、甲は、本件キャッシュカード等をAが見ている前で空の封筒内に入れた。その際、甲は、Aに対し、「この封筒に封印をするために印鑑を持ってきてください。」と申し向け、Aが玄関近くの居間に印鑑を取りに行っている隙に、本件キャッシュカード等が入った封筒とダミー封筒をすり替え、本件キャッシュカード等が入った封筒を自らが持参したショルダーバッグ内に隠し入れた。Aが印鑑を持って玄関先に戻って来ると、甲は、ダミー封筒をAに示し、その口を閉じて封印をさせた上でAに手渡し、「後日、こちらから連絡があるまで絶対に開封せずに保管しておいてください。」と言い残して、本件キャッシュカード等が入った封筒をそのままA方から持ち去った。
その数時間後、甲の一連の行動を不審に感じたAが前記事情を警察に相談したことから、甲の犯行が発覚し、警察から要請を受けたB銀行は、同日中に前記口座を凍結(取引停止措置)することに応じた。
翌日、甲は、自宅近くのコンビニエンスストアに行き、同店内に設置されていた現金自動預払機(以下「ATM」という。)に前記キャッシュカードを挿入して現金を引き出そうとしたが、既に前記口座が凍結されていたため、引き出しができなかった。
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〔設問1〕【事例1】における甲のAに対する罪責について、論じなさい(住居侵入罪及び特別法違反の点は除く。)。
(答案)
設問1
1.甲がAに本件キャッシュカード・メモ紙を手渡させた行為につき、詐欺罪(刑法246条1項)が成立しないか。
(1) 「欺」罔行為は、被欺罔者の意思に基づく財物の終局的移転を内容とする処分行為に向けられていることを要する。
(2) 甲は、金融庁職員に成りすまし、Aに対し、「キャッシュカードを証拠品として保管しておいてください。後日、お預かりする可能性があるので」と告げている。そのため、Aは、金融庁職員に後日預けるまでは自己が保管しておくつもりだったといえるから、A方内で保管するべき証拠品をまとめるために一時的に本件キャッシュカード等を甲に手渡す認識しかなかったといえる。そうすると、甲に本件キャッシュカード等を手渡したAとしては、自身の行為により本件キャッシュカード等に対する占有を弛緩する認識を有するにとどまり、その占有を終局的に甲に移転する認識までは有しない。したがって、Aによる処分行為に向けられた「欺」罔行為がないため、1項詐欺罪は成立しない。
2.では、甲が本件キャッシュカード等が入った封筒をA方から持ち去った行為に窃盗罪(235条)が成立しないか。
(1) 「財物」は財産的価値を要する。キャッシュカード・暗証番号が記載されたメモ紙は、これを利用して預金の払戻しを受けられる等の財産的価値があるから「財物」に当たる。
(2) 「窃取」は占有者の意思に反する占有移転を内容とする。甲は、封筒を持ってA方から出た時点で、占有者Aの意思に反して、本件キャッシュカード等に対する占有をAから自己に移転することで、「他人の財物を窃取」した。
(3) 甲には、上記財物を利用した預金の無断引出しによる現金領得の意思があったのだから、故意に加えて不法領得の意思もあり、窃盗罪が成立する。
1.詐欺罪の実行行為の捉え方
本事例において、詐欺罪の実行行為性を検討する行為は、正しくは、「甲がAに本件キャッシュカード・メモ紙を手渡させた上、玄関先から居間に印鑑を取りに行かせた行為」です。
出題趣旨でも、『設問1では、事例1における甲の罪責について、甲が本件キャッシュカード等在中の封筒をダミー封筒にすり替えて取得した行為が窃盗罪と詐欺罪のいずれに当たるかを巡り、両罪の区別基準とされる処分行為の有無が問題となるところ、それが問題となるのが、甲がAに「この封筒に封印するために印鑑を持ってきてください。」と申し向けて印鑑を取りに行かせた場面であることを的確に指摘した上で,本事例にある具体的事実を基に検討することが求められていた。』とあります。
今回の4頁答案では、「甲がAに本件キャッシュカード・メモ紙を手渡させた行為」までを詐欺罪の実行行為性を検討する行為と捉えています。
試験本番で、本事例において詐欺罪の実行行為性を検討する行為を正確に捉えるのは難しいです。
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2.処分行為の客観面と主観面
処分行為は、①行為の客観面として、それ自体が財物の占有を終局的に移転させるものであることと、②行為の主観面として、被欺罔者の意思に基づき財物の占有が終局的に移転したこと(すなわち、①が認められることを前提に、被欺罔者の意思が財物の占有の終局的移転にまで及んでいること)の双方から判断されます(令和1年司法試験・出題趣旨)。
もっとも、処分行為の客観面と主観面を区別することを知っている受験生は少なく、多くの答案では両者を区別することなく処分行為を論じていたことから、令和1年当時は、100番付近の水準としても、処分行為について客観面と主観面に区別して論じることが不要であったと考えています。
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3.窃盗罪の論じ方
(1)構成要件要素を網羅的に認定することは重視されている
本事例において、処分行為に向けられた「欺」罔行為がないとして1項詐欺罪の成立を否定した場合に窃盗既遂罪が成立することは明白ですから、窃盗既遂罪については簡潔に論じれば足りるように思えます。
もっとも、出題趣旨・採点実感を読むと、「他人の財物」、「窃取」、構成要件的故意及び不法領得の意思を全て認定することが採点上重視されているように思われます。
そのため、窃盗罪の客観的構成要件及び主観的構成要件についてメリハリを付けながら網羅的に認定するべきです。
(2)できるだけ規範を定立する
規範を定立しないよりは定立したほうが点が入りますから、規範の抽象度を高めることで規範の正確性を下げても構いませんから、出来るだけ規範定立をするべきです。
私の答案では、「財物」と「窃取」について規範定立をし、これらのうち「窃取」については規範を抽象化して規範定立の負担を軽減する一方で規範の正確性を下げています。
規範定立に関しては、①規範を正確に書く、②抽象度を高めることで規範を短くする(その分、正確性が低くなることが多い)、③規範を定立しないという3つの選択肢があります。
規範に限らず抽象論全般に共通して言えることですが、③よりも②のほうが点数が付くということです。
司法試験論文の採点方式は大原則として加点方式であり、よほどおかしなことを書かない限り積極的に減点されることはないからです。
これは、全科目に共通することですから、強く意識したいところです。
(3)窃盗の既遂時期
窃盗の既遂時期については、キャッシュカード等をショルダーバッグ内に隠し入れた時点か、それともA方から出た時点かという事実認定上の論点がありますが、本事例において後者の時点で既遂を認めても特段不都合はありませんから、答案戦略上、理由付けを省略しても認定することができる後者の時点で「窃取」完了としています。
(4)主観的構成要件
問題文中には、「甲・・は、他人名義の預金口座のキャッシュカードを入手した上、その口座内の預金を無断で引き出して現金を得ようと考え・・」という利用処分意思に直接該当する事実がありますから、この事実を使って利用処分意思を認定することにはそれなりの配点があると考えられます。
他方で、故意及び権利者排除意思に直接該当する事実を問題文中から引用することはできませんから、これらを認定する際には認定理由として事実評価まで書く必要がありますが、問題なく認められるこれらの要件について事実評価まで書いて認定するのは得点効率が悪いです。
だからといって、利用処分意思を認定する以上、故意及び権利者排除意思の認定を飛ばすことはできません。
そこで、『甲には、上記財物を利用した預金の無断引出しによる現金領得の意思があったのだから、故意に加えて不法領得の意思もあり・・』と書くことで、実質的には利用処分意思しか認定していないものの、形式的には故意及び権利者排除意思も認定しているというごまかした書き方を採用しています。
これでも構いません。主観的構成要件の認定を丸々飛ばしたり、基本要件である故意の認定を飛ばして加重要件である不法領得の意思だけを認定したり、不法領得の意思の片方だけを認定するよりはマシです(特に2つ目は、刑法の理論体系に反する書き方であり、採点官に悪印象を与えることになります。)。
故意及び権利者排除意思の認定根拠に対して振られている点数が付かないだけです。
繰り返しますが、原則として、書いた分だけ点が付き、書かなった分だけ点が付かないだけですから、故意及び権利者排除意思の認定根拠がないとの理由から積極的に減点されることにはなりません。
令和1年司法試験刑法・設問2
(問題)
【事例2】(【事例1】の事実に続けて、以下の事実があったものとする。)
甲は、現金の引き出しができなかったため、ATMの前で携帯電話を使ってA方に電話をかけてAと会話していた。同店内において、そのやり取りを聞いていた店員C(男性、20歳)は、不審に思い、電話を切ってそそくさと立ち去ろうとする甲に対し、甲が肩から掛けていたショルダーバッグを手でつかんで声をかけた。甲は、不正に現金を引き出そうとしたことで警察に突き出されるのではないかと思い、Cによる逮捕を免れるため、Cに対し、「引っ込んでろ。その手を離せ。」と言ったが、Cは、甲のショルダーバッグをつかんだまま、甲が店外に出られないように引き止めていた。
その頃、同店に買物に来た乙(男性、25歳)は、一緒に万引きをしたことのあった友人甲が店員のCともめている様子を見て、甲が同店の商品をショルダーバッグ内に盗み入れてCからとがめられているのだろうと思い、甲に対し、「またやったのか。」と尋ねた。甲は、自分が万引きをしたと乙が勘違いしていることに気付きつつ、自分がこの場から逃げるために乙がCの反抗を抑圧してくれることを期待して、乙に対し、うなずき返して、「こいつをなんとかしてくれ。」と言った。乙は、甲がショルダーバッグ内の商品を取り返されないようにしてやるため、Cに向かってナイフ(刃体の長さ約10センチメートル)を示しながら、「離せ。ぶっ殺すぞ。」と言い、それによってCが甲のショルダーバッグから手を離して後ずさりした隙に、甲と乙は、同店から立ち去った。
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〔設問2〕【事例1】において甲が現金を引き出そうとした行為に窃盗未遂罪が成立することを前提として、【事例2】における乙の罪責について、論じなさい(特別法違反の点は除く。)。 なお、論述に際しては、以下の①及び②の双方に言及し、自らの見解(①及び②で記載した立場に限られない)を根拠とともに示すこと。
① 乙に事後強盗の罪の共同正犯が成立するとの立場からは、どのような説明が考えられるか。
② 乙に脅迫罪の限度で共同正犯が成立するとの立場からは、どのような説明が考えられるか。
(答案)
設問2
1.①
(1) まず、事後強盗罪は「窃盗」を真正身分とする真正身分犯であると解する。次に、65条1項は真正身分犯の成立と科刑における身分の連帯的作用を規定しており、同条項の「共犯」には共同正犯(60条)も含まれると解する。
(2) そうすると、乙のように、窃盗未遂犯との共謀に基づき238条所定の目的に基づく脅迫のみを実行した後行者には、65条1項の適用により「窃盗」が共謀者間で連帯することにより事後強盗未遂罪の共同正犯の成立が認められる。
2.②
(1) 事後強盗罪は、窃盗行為と暴行・脅迫行為の双方を実行行為とする結合犯であると解する。
(2) そうすると、乙については、事後強盗罪の実行行為の途中から関与した者として承継的共同正犯の成否が問題となるから、承継的共同正犯を全面的に否定する見解からは脅迫罪(222条1項)の共同正犯が成立するにとどまる。
3.自らの見解
(1) 「共同して犯罪を実行した」というためには、関与者間の共謀とそれに基づく実行行為が必要である。乙は、「こいつをなんとかしてくれ」という甲の申し入れに応じて、Cに向かってナイフを示しながら「離せ、ぶっ殺すぞ」と言ったのだから、その直前に、Cを「脅迫」することについて了承していたと評価できる。そのため、甲乙間で、少なくともCを「脅迫」することについての共謀が成立した。
(2) 事後強盗罪の保護法益の中核は窃盗行為に関する財産であるから、窃盗行為を本罪の実行行為から排除するべきでない。そこで、本罪は、窃盗行為と暴行・脅迫行為の双方を実行行為とする結合犯であると解すべきである。乙は、共謀に基づき、前記(1)の言動により、Cに対してその「生命、身体…に対し害を加える旨を告知」することで、Cに対する「脅迫」行為を実行した。
(3) 他方で、乙は窃盗を実行していないから、承継的共同正犯の成否が問題となる。
共同正犯の処罰根拠は構成要件該当事実の共同惹起であるところ、関与前の事実に対して因果性が遡及することはあり得ないから、承継的共同正犯は全面的に認められないと解すべきである。
したがって、乙には、脅迫罪を「共同して…実行した」として、脅迫罪の共同正犯が成立するにとどまる。
1.小問①②でどこまで書くべきか
まず、学説の理由付けについてですが、令和1年設問2に関する採点実感では、『自説については、問題文で「根拠とともに示すこと」とされていることから、自説の根拠や他説に対する批判を積極的に示すことができていた答案は高い評価であった』とされている一方で、小問①②については問題文で『根拠とともに示すこと』という指示がありません。
そうすると、小問①②では、指示された結論を導くための学説の選択及び論点の組み合わせが重視されており、選択した学説の理由付けまでは求められていない(少なくとも重視されていない)と考えられます。
そこで、小問①・②では学説の理由付けを飛ばしています。
次に、学説対立が顕在化しない構成要件要素についてどこまで論じるかですが、令和1年設問2に関する出題趣旨では、『自説として事後強盗の罪の共同正犯が成立するとする場合、自説とする前記a~c等の見解を採る根拠や他説への批判を論じた上で、客観的構成要件要素として「窃盗」、「窃盗の機会」、「脅迫」を、主観的構成要件要素として故意及び目的を、さらに、甲乙間の共謀を、それぞれ検討する必要がある。』、『自説として脅迫罪の共同正犯にとどまるとする場合、自説とする前記d~g等の見解をとる根拠や他説への批判を論じた上で、客観的構成要件要素として「脅迫」を、主観的構成要件要素として故意を、さらに、甲乙間の共謀について、それぞれ検討する必要がある。』とされています。
そうすると、学説対立が顕在化しない構成要件要素については、主として自説の段階で論じることが予定されているといえます。
したがって、小問①②では、主として指示された結論を導くための学説の選択及び論点の組み合わせという抽象論を論じることになります。
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2.自説の論じ方
自説の論じ方としては、小問①の立場を支持する、小問②の立場を支持する、小問①②とは異なる筋で論じるという3つの選択肢があります。
基本的には、小問①又は小問②の立場を支持する構成のほうが楽だと思います。
そして、小問①の立場を支持する場合、「窃盗の機会」について規範定立をした上で認定する必要があるうえ、甲と乙の認識の齟齬を踏まえて故意や共謀を認定するという厄介な問題に直面しますから、小問②の立場を支持したほうが楽です。
結合犯説から事後強盗未遂罪の共同正犯の成立を否定する構成には、承継的共同正犯全面否定説に立つという構成と、中間説+当てはめという構成の2通りがありますが、前者のほうが分量を抑えることができますし、当てはめを考える負担を回避することもできますから、私の答案では承継的共同正犯全面否定説を採用しています。
令和1年司法試験刑法・設問3
(問題)
【事例3】(【事例1】の事実に続けて、【事例2】の事実ではなく、以下の事実があったものとする。)
甲は、現金の引き出しができなかったため、同店の売上金を奪おうと考え、同店内において、レジカウンター内に一人でいた同店経営者D(男性、50歳)に対し、レジカウンターを挟んで向かい合った状態で、ナイフ(刃体の長さ約10センチメートル)をちらつかせながら、「金を出せ。」と言って、レジ内の現金を出すよう要求した。それに対し、Dが「それはできない。」と言って甲の要求に応じずにいたところ、甲は、「本当に刺すぞ。」と怒鳴り、レジカウンターに身を乗り出してナイフの刃先をDの胸元に突き出したが、それでも、Dは甲の要求に応じる素振りさえ見せなかった。
同店に客として来ておりそのやり取りを目撃していた丙(女性、30歳)は、Dを助けるため、間近に陳列されていたボトルワインを手に取り、甲に向かって力一杯投げ付けた。ところが、狙いが外れ、ボトルワインがDの頭部に直撃し、Dは、加療約3週間を要する頭部裂傷の傷害を負った。なお、ボトルワインを投げ付ける行為は、丙が採り得る唯一の手段であった。
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〔設問3〕【事例3】において、丙がDの傷害結果に関する刑事責任を負わないとするには、どのような理論上の説明が考えられるか、各々の説明の難点はどこかについて、論じなさい。
(答案)
設問3
1.丙はワインボトルを投げるという暴行によりDに頭部裂傷の「傷害」を負わせたから、傷害罪(204条)の客観的構成要件に該当する。刑事責任否定の説明・難点は以下の通り。
2.甲に暴行・傷害を加える認識でDを傷害した丙には方法の錯誤がある。認識事実と実現事実が同一構成要件内で符合していれば具体的事実の錯誤は故意を阻却しないと解されているが、責任主義の見地より法益主体の抽象化を認めるべきではないから、法益主体について認識事実と実現事実とが具体的に符合していなければ故意が阻却されると解する。そうすると、丙において認識事実と実現事実が「その人」という点で符合していないため故意が阻却される。もっとも、過失傷害罪(209条)の成立余地が残るという難点がある。
3.甲が「本当に殺すぞ」と言ってナイフをDの胸元に突き出すなどしていたため、甲によるDの生命・身体の安全に対する「急迫不正の侵害」があり、丙はDを「防衛するため」に前記行為に及んでいるため、正当防衛の成立地がある。もっとも、防衛行為の結果が侵害者以外の第三者に生じた場合には、正対不正という正当防衛状況を欠くため、正当防衛は成立しないはずであるという難点がある。
4.防衛行為の結果が第三者に生じた場合、誤想防衛の一種と捉えることで責任故意が阻却されると解される。もっとも、過失傷害罪(209条)の成立余地があるという難点がある。
設問3では、理論構成一つ一つの丁寧さよりも、理論構成の網羅性を重視しています。
主たる理論構成として、①方法の錯誤、②正当防衛、③緊急避難、④誤想防衛が挙げられますが、3つが限界です。
刑法の理論体系を網羅したほうが点数が伸びると考え、①②③ではなく、①②④の3つで論じています。
①では、大阪高裁判決平成14・9・4(百Ⅰ28)を踏まえて、抽象的法定符合説の立ちながら、同説が方法の錯誤により故意が阻却されないとする実質的根拠に遡り、侵害者と被侵害者との構成要件的同価値性が否定されるとして例外的に故意を否定するという構成もあり得ますが、これはかなり上級者向けの構成ですから、今回の答案ではシンプルに具体的符合説(具体的法定符合説)から論じています。
②④については、だいぶ簡潔な論述になってしまっていますが、それでも抽象論を飛ばさないということは徹底しています。
以上が今回の現実的な上位答案を作成した際の私の思考過程です。
現実的な上位答案及びこれを作成した際の思考過程を参考にして頂き、特に設問2・3の学説問題対策として何を・どこまで記憶すればいいのかを明確にして頂きたいと思います。
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