行政法でも、論文試験として判例を学習する必要があるからといって、必ずしも判例集で判例の事案及び判旨を最初から最後まで読む必要はありません。
論文試験でこの判例を使うためには、この判例についてどこまで丁寧に勉強をする必要があるのかということから逆算して、判例ごとに勉強の仕方に濃淡をつけることになります。
例えば、行政処分の職権取消しは重要論点ですが、農地買収計画及び売渡計画の取消しという形で判例と同様の事案で出題されるわけではありませんから、「処分をした行政庁その他正当な権限を有する行政庁においては、自らその違法または不当を認めて、処分の取消によつて生ずる不利益と、取消をしないことによつてかかる処分に基づきすでに生じた効果をそのまま維持することの不利益とを比較考量し、しかも該処分を放置することが公共の福祉の要請に照らし著しく不当であると認められるときに限り、これを取り消すことができると解するのが相当である…。」という職権取消市の限界に関する部分だけ精読して論証化して記憶しておけば足ります。
他方で、論証部分だけでなく、当てはめレベルのことまでしっかりと学習しておくことが望ましい判例もあります。
このように、判例には論証部分を記憶した上で事案判旨の概要に目を通しておけば足りるものもある一方で、分野・論点ごとの書き方を当てはめ部分から学ぶ必要があるなど、当該判例から学ぶべきことを習得するためには事案判旨を最初から最後まで読んだ方が良いものもあります。
以下で挙げている10個の判例は、試験における出題可能性だけでなく、こうした事情も踏まえて選別したものです。
なお、左側の事件番号が第7版の判例百選、右側の事件番号が第8版の判例百選(2022年11月30日発行)に対応するものです。
- 都市計画と裁量審査(小田急高架訴訟) 百Ⅰ75(百Ⅰ72)
- 行政指導の限界(品川マンション事件) 百Ⅰ124(百Ⅰ121)
- 安全認定と建築確認との間における違法性の承継 百Ⅰ84(百Ⅰ83)
- 一級建築士免許取消しにおける理由の提示 百Ⅰ120(百Ⅰ117)
- 土地区画整理事業計画決定の処分性 百Ⅱ152(百Ⅱ147)
- 病院開設中止勧告の処分性 百Ⅱ160(百Ⅱ154)
- 市立保育所廃止条例 百Ⅱ204(百Ⅱ197)
- 都市計画事業認可と第三者の原告適格(小田急訴訟) 百Ⅱ165(百Ⅱ159)
- 公務員懲戒処分の差止訴訟(教職員国旗国歌訴訟) 百Ⅱ207(百Ⅱ200)
- 営造物の設置保存の瑕疵(テニスコート審判台転倒事件) 百Ⅱ240(百Ⅱ235)
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