加藤喬の司法試験・予備試験対策ブログ

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法律要件の一部の検討を飛ばすと、積極的に減点されるのか

法律要件のうち、問題なく認められる要件の検討を飛ばしたり、問題文・会話文の誘導に乗ることができていない箇所がある場合、大幅な減点になるのでしょうか。

司法試験論文の採点方式は原則として加点方式であり、法律要件の一つを丸々落とした場合、その法律要件に振られている配点を落とすだけです。例えば、刑法の窃盗罪の配点が10点、そのうち「他人の財物」が2点だったとすると、「他人の財物」について一切言及しなかった場合、「他人の財物」に振られている2点を丸々落とすだけです。

配点項目ごとの配点の範囲を超えて積極的に減点されることは、極めて稀です。上記の例でいえば、「他人の財物」について一切言及しなかった場合に、法律要件を全て検討するという姿勢がなっていないとして、「他人の財物」に振られている2点を丸々落とすだけでなく、さらに1~2点引かれ、合計で「他人の財物」に振られている2点を超えて3~4点失点されるというのは、極めて稀です。

もちろん、加点方式はあくまでも原則にすぎません。例えば、余事記載に関することですが、平成26年司法試憲法の採点実感では、条例による職業規制の事案において原告側が条例自体が違憲であると主張して訴訟を提起したということが問題文に明記されているにもかかわらず、適用違憲(処分違憲)を論じた答案について、「当該記載について積極的評価ができないのみならず、解答の前提を誤るなどしているという点においても厳しい評価となった」として、積極的に減点することが示唆されています。また、平成25年司法試験民事訴訟法の採点実感では、「小問2において弁論主義との関係で記述が求められている事項は以上に尽きるにもかかわらず、相変わらず、弁論主義の根拠、弁論主義の第2テーゼ、第3テーゼ、第1テーゼが間接事実には適用がないこと及びその理由(自由心証による事実認定を窮屈にする云々)まで長々と論じるものがあるが、やはり得点につながらない上、丸暗記した論証パターンを無反省に書き散らした答案として、印象も極めてよくない。」とあり、「得点につながらない」だけでなく、「印象も極めてよくない」として悪印象を媒介として採点上不利益に作用するということが示唆されています。そのため、上記で挙げられている極端な余事記載と同様、論点以外の法律要件を飛ばしまくっている答案については、直接に積極的に減点されたり、悪印象を媒介として採点上不利益に作用する形で実質的な減点に繋がる、ということもあり得ます。

印象点について少し補足すると、詳細な配点項目を設けるなどして採点表の客観性を高めても、配点項目ごとに配点の範囲内でどれくらい点を与えるのかという判断の過程に人間の主観が介在する以上、答案に対する採点者の印象が採点に影響を及ぼすことになります。この意味で、採点者の印象は、実質的な加点・失点要因になります。

飛ばした法律要件に振られている配点の範囲を超えた失点という意味での減点措置について、だいぶ丁寧に説明しましたが、これはあくまでも例外です。特に、印象を媒介としない直接的な減点は、例外中の例外です。採点者が答案を読んでいて、「この受験生は、法律要件を全て検討する姿勢はあるけど、ここはミスで飛ばしてしまったんだな、又はメリハリ付けの一環として敢えてここだけ飛ばしたんだな」という評価になるものであれば、直接に積極的に減点されたり、悪印象を媒介として採点上不利益に作用する形で実質的な減点に繋がるということはありません。問題文・会話文の誘導に乗り切れなかった場合についても、同様です。

例えば、私の平成26年司法試験の再現答案だと、行政法で会議録で分かりやすく誘導されている職権撤回を丸々落としましたが200位/受験者8015人(公法系100位で、憲法が50位くらいです)、刑法で丙の罪責の検討過程で因果関係の有無を検討しないで不作為による殺人未遂罪の成立を認めて160位/受験者8015人だったので、配点の範囲内での失点にとどまっていると思います。

2020年10月01日
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加藤ゼミナールは、加藤喬講師が代表を務める予備試験・司法試験のオンライン予備校です。

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加藤ゼミナール代表取締役
加藤 喬かとう たかし
加藤ゼミナール代表取締役
弁護士(第二東京弁護士会)
加藤ゼミナール代表
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院(既修) 卒業
2014年 労働法1位・総合39位で司法試験合格
2021年 7年間の講師活動を経て、「法曹教育の機会均等」の実現と「真の合格実績」の追求を理念として加藤ゼミナールを設立
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