物を対象とする譲渡担保の法的性質については、①所有権移転の形式を重視して、譲渡担保契約により目的物の所有権が完全に移転すると理解する所有権的構成と、②債権担保という実質を重視して、譲渡担保契約によっては目的物の完全な所有権移転は生じず、設定者にも目的物についての何らかの物権が帰属していると理解する担保的構成とがあります。
②担保的構成をとる学説には、大きく分けると、㋐債権担保の目的を達するために必要な範囲においては譲渡担保契約による所有権移転を認める一方で、それ以外の物権は設定者に留保される(これを「設定者留保権」といいます。)と理解する見解と、㋑債権担保の目的を達するために必要な範囲においても所有権移転は生じないと理解する見解とがあります。
昭和57年最判(最判昭和57.9.28判時1062号81頁)は、「譲渡担保は、債権担保のために目的物件の有権を移転するものであるが、右所有権移転の効力は債権担保の目的を達するのに必要な範囲内においてのみ認められるのであって、担保権者は、債務者が被担保債務の履行を遅滞したときに目的物件を処分する権能を取得し、この権能に基づいて目的物件を適正に評価された価額で確定的に自己の所有に帰せしめ又は第三者に売却等することによって換価処分し、優先的に被担保債務の弁済に充てることができるにとどまり、他方、設定者は、担保権者が右の換価処分を完結するまでは、被担保債務を弁済して目的物件についての完全な所有権を回復することができるのであるから…、正当な権原なく目的物件を占有する者がある場合には、特段の事情のない限り、設定者は、前記のような譲渡担保の趣旨及び効力に鑑み、右占有者に対してその返還を請求することができるものと解するのが相当である。」として、譲渡担保権者が換価処分を完結するまでの間は、譲渡担保による目的物の「所有権移転の効力は債権担保の目的を達するのに必要な範囲内においてのみ認められる」にとどまるとの理由から、譲渡担保権設定者による不法占有者に対する所有権に基づく返還請求を認めています。
これは、②担保的構成のうち㋐に該当する見解であるといえます。
本判決における「所有権移転の効力は債権担保の目的を達するのに必要な範囲内においてのみ認められる」という一般論は、それ以降の最高裁判決でも繰り返し用いられているため、判例法理としてほぼ確立したものと理解されています(道垣内「担保物権法」第4版308頁参)。また、通説も同様の立場です。
令和7年3月7日に閣議決定され、国会に提出された「譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律案」でも、動産譲渡担保権設定者の妨害排除請求権・返還請求権が定められていることなどから、物を対象とする譲渡担保の法的性質について、判例・通説の立場である②担保的構成の㋐の見解を採用していると考えられます。
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