執行停止における「重大な損害」要件は、申立人の損害と処分の必要性とを比較衡量して判断されます。
平成20年司法試験と令和5年司法試験では、申立人以外の第三者の損害(申立人が運営する介護老人保健施設の利用者の損害など)を「重大な損害」要件の判断で考慮することが問われています。
本案となる取消訴訟が原告の個人的な権利利益の保護を目的とした主観訴訟であるため、その付随手続である執行停止における「重大な損害」を基礎付けるものは専ら申立人自身の損害に限られます。
このことを前提として、申立人以外の第三者の損害の考慮の仕方には2つあります。
1つ目は、第三者に損害が生じるおそれを処分の必要性を後退させる事情として考慮する構成です。
第三者に損害が生じるという事態が処分の根拠規定の目的に反するのであれば、その分だけ処分の必要性が後退します。
例えば、介護保険法上の不利益処分により介護老人保健施設の経営が立ち行かなくなり、利用者が同施設で介護サービスを受けられなくなるという損害を被るおそれがある場合、そのような事態は要介護者の利益保護という介護保険法の目的に反するため、その分だけ処分の必要性が後退します。
この構成は、「事例研究 行政法」第4版の309~310頁で取り上げられています。
2つ目は、申立人と第三者との関係(又は申立人の損害と第三者の損害との関係)などに着目して、第三者の損害を申立人の損害に引き直すという構成です。
例えば、介護老人保険施設を運営する申立人は、社会福祉事業の担い手として要介護者の利益保護を図るべき責務を負っているため、利用者が同施設で介護サービスを受けられなくなるという損害を被ることは、申立人の施設運営者としての責務を果たせなくなるという意味において、申立人自身の損害として評価することができます。
この構成は、令和5年司法試験の採点実感で取り上げられています。
” 本案となる取消訴訟が主観訴訟である以上、「重大な損害」を基礎付けるものは、専ら執行停止の申立人自身の損害である。本件申立てをするのはAであり、Aの利用者や従業員は第三者に当たるから、単に多数の者に損害が発生することを言うだけでは不十分であり、例えば、「処分の内容及び性質」として、法の目的に照らすと、処分は本来社会福祉の増進を目的とすべきものであるにもかかわらず、本件解散命令によってかえってその逆の事象が生じかねないことを指摘するなど、何らかの言及が必要であろう。…略…また、平成19年決定は、当該弁護士の依頼者に生ずる損害の大きさを考慮したものではなく、その損害を当該弁護士の損害に引き直して考慮したものと評価するのが相当であるところ、これとパラレルに考えれば、本件においても、利用者や従業員の損害の重大性を論ずるのではなく、その損害をAの損害に引き直して論ずることが求められることに気付いてほしかった。”(令和5年司法試験・採点実感)
執行停止における「重大な損害」要件は、司法試験における出題頻度の高い重要論点の一つであり、正しく充実した当てはめを展開できるかが肝になってきます。しっかりと理解しておきましょう。
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