今回は、強盗致傷事案における承継的共同正犯の成否について取り上げます。
承継的共同正犯は超重要論点であり、学説対立の構造と中間説における当てはめの仕方について、しっかりとおさえておく必要があります。
(事案)
Xは、財物奪取の意思でVに暴行を加えたところ、Vは負傷するとともに反抗抑圧状態に陥った。その後、Yは、Xと現場共謀を遂げた上で、Vから財物を奪い取った。
(解説)
承継的共同正犯の肯否については、全面肯定説、全面否定説及び中間説とがあるところ、全面肯定説を支持する学説はほぼ存在しません。
学説の多くは、因果共犯論の立場から、因果性は遡及しないことを前提に、先行行為により構成要件該当事実の一部が惹起されている以上、後行者の関与行為が構成要件該当事実全体に因果性を及ぼすことはできないとして、全面否定説を支持しています。もっとも、論文試験では、当てはめの配点を落とさないためにも、原則として全面否定説ではなく中間説を採用するべきです。
中間説には、因果性を基準にする見解と、積極的利用を基準にする見解とがあります。
最高裁平成24年決定は、中因果性を基準にする見解を採用しています。この見解からは、強盗既遂の限度ではYの関与行為の因果性が及んでいるといえるが、因果性は遡及しない以上、Yの関与前にXの暴行により生じたVの負傷結果についてはYの関与行為の因果性が及んでいるとはいえないとの理由から、強盗致傷罪(又は強盗傷人罪。以下同じ。)の承継的共同正犯の成立までは認められず、強盗既遂罪の承継的共同正犯が成立するにとどまります。
なお、最高裁平成24年決定は、Yは、Xの暴行により傷害を負ったVが抵抗困難な状態に陥っていたことから、Xと現場共謀の上、かかる状況を積極的に利用することでVに対して制裁目的で暴行を加えたという事案において、「…Yは、共謀加担前にXが既に生じさせていた傷害結果については、Yの共謀及びそれに基づく行為がこれと因果関係を有することはないから、傷害罪の共同正犯として責任を負うことはな…い…。…Yにおいて、Vが甲の暴行を受けて負傷し、逃亡や抵抗が困難になっている状態を利用して更に暴行に及んだ…事実があったとしても、それは、Yが共謀加担後に更に暴行を行った動機ないし契機にすぎず、共謀加担前の傷害結果について刑事責任を問い得る理由とはいえないものであって、傷害罪の共同正犯の成立範囲に関する上記判断を左右するものではない。」と述べ、共謀加担前に生じた傷害結果に関する傷害罪の承継的共同正犯の成立を否定しています。
最高裁平成24年決定が出される前の下級審裁判例では、後行者において先行者による行為や結果を自己の犯罪遂行の手段として積極的に利用したことを承継的共同正犯の成立要件とする積極的利用説が主流であり、積極的利用説では、積極的利用が認められるのであれば、因果性が及ばない結果についても承継的共同正犯の成立が認められます(応用刑法Ⅰ469~478頁)。もっとも、積極的利用説からであっても、Yが強盗のために積極的に利用したXによる結果はVの反抗抑圧状態にとどまり、負傷結果まで積極的に利用したわけではないとして、強盗既遂罪の承継的共同正犯の成立が認められるにとどまると考えられます。
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