刑法における【早すぎた構成要件の実現】は、司法試験でも2回出題(平成25年、令和2年)されている重要論点ですが、問題の所在も含めて正しく理解できている受験生は多くないです。
早すぎた構成要件の実現におけるポイントは、次の3つです。
1つ目は、第1行為と第2行為を全体として一個の実行行為とみることにより第1行為の時点で「実行に着手」(43条本文)を認めることの可否です。
ここで重要なことは、仮に第1行為と第2行為とを別々の実行行為と捉え、第1行為の危険性だけに着目して第1行為の時点で「実行に着手」を認める得る事案であっても、最高裁平成16年決定の判断枠組みに従い、第1行為と第2行為を全体として一個の実行行為とみることにより第1行為の時点で「実行に着手」を認めることの可否を検討するということです。そうしないと、仮に第1行為の危険性だけに着目して第1行為の時点で「実行に着手」を認めることができたとしても、実行行為である第1行為の時点では死亡結果の認識・認容がなかったとして、殺人既遂罪の故意が否定されるからです。
2つ目は、1つ目の検討において、第1行為と第2行為を全体として一個の実行行為とみることにより第1行為の時点で「実行に着手」を認めることができた場合、第2行為の時点に留保されていた死亡結果の認識・認容を第1行為の時点に前倒しすることができることになり、第1行為の時点でも死亡結果の認識・認容が認められるということです。
このように、1つ目の検討(「実行に着手」)と2つ目の検討(殺人既遂罪の故意[38条1項本文])とは連動しています。
3つ目は、因果関係の錯誤も問題になるという点です。
構成要件的故意とは、客観的構成要件該当事実を認識・認容の対象とするものですから、客観的構成要件該当事実の一つである因果関係も故意の認識・認容の対象となります。したがって、認識した因果関係と実際の因果関係とがずれているのであれば、因果関係の錯誤が問題となります。
2つ目の検討においてクリアしているのは、結果の認識・認容の有無という点だけですから、因果関係の錯誤の論点は別途問題となるわけです。
この点については、法定的符合説から因果関係の錯誤は故意を阻却しないということを簡潔に指摘すれば足ります。なお、因果関係の錯誤については、別途、こちらのコラム(「因果関係の錯誤の論じ方」)をご覧ください。
以上が【早すぎた構成要件の実現】に関する3つのポイントです。
あとは、例えば第1行為と結果発生の間に介在事情が存在する場合(平成25年、令和2年)には、法的因果関係の有無が問題となりますし、客体の錯誤や方法の錯誤がある場合には具体的事実の錯誤が別途問題となります。本試験の問題では、早すぎた構成要件の実現に固有の論点(上記3つのポイント)以外の論点も問題となる応用事例が出題される可能性もあります。
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