加藤喬の司法試験・予備試験対策ブログ

刑法の答案の書き方

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刑法では、犯罪ごとに構成要件を一つひとつ認定し、その際、必要に応じて、当てはめに入る前に規範や論証を明示したり、当てはめの中で規範を前提にした評価をします。もっとも、要件によっては、当てはめの中で規範を前提にした評価をすることすら不要であり、事実からダイレクトに要件を認定するべき場合もあります。

要件を認定する際の論述の形式には、3パターンあります。

1つ目は、「『焼損』とは…(独立燃焼説の規範)…を意味する。本問では、…(事実の摘示・評価)…。したがって、「焼損」に当たる。」というように、当てはめに入る前に規範を明示することにより、規範定立→当てはめ→結論という3つのステップを踏む論述形式です。これを、「形式的にも法的三段論法を踏む…答案」といいます。

2つ目は、「本問では、新聞紙の火が甲方の木製の床板に燃え移り、同床板が燃え始め、同床板の表面の約10cm四方まで燃え広がったのだから、火が媒介物である新聞紙を離れてV方に燃え移りV方が独立して燃焼を継続する状態に達したといえる。したがって、甲がV方を「焼損」したといえる。」というように、規範を明示することなくいきなり当てはめに入るが、当てはめの中で規範を前提とした事実評価をする(当てはめの中で規範の表現が出てくる)論述形式です。これを、「規範定立を意識した答案」といいます。

3つ目は、「V方は全焼したのだから、「焼損」に当たる。」というように、当てはめの中で規範を前提にした評価をすることすらなく、事実からダイレクトに要件を認定する論述形式です。これを、「事実からダイレクトに要件を認定する答案」といいます。

規範定立については、平成27年司法試験刑法の採点実感において、次のように言及されています。

法的三段論法の意識に乏しい答案も散見された。すなわち、甲乙丙の罪責を論ずるに当たっては、客観的構成要件該当性、主観的構成要件該当性、あるいは急迫不正の侵害の有無等を論ずる必要があるところ、そのためには、検討が必要となるそれぞれの規範を述べた上、事実を指摘して、これを当てはめる必要がある。この法的三段論法を意識せず、事実を抜き出して、いきなり当てはめるという答案が散見され、法的三段論法の重要性についての意識が乏しいのではないかと思われた。もとより、前記のように重要度に応じて記述する必要があるから、全ての論述について形式的にも法的三段論法を踏む必要はないが、少なくとも、規範定立を意識した答案が望まれる。

上記の採点実感のうち、「検討が必要となるそれぞれの規範を述べた上、事実を指摘して、これを当てはめる…。」という論述形式が1つ目の「形式的にも法的三段論法を踏む…答案」を意味し、「前記のように重要度に応じて記述する必要があるから,全ての論述について形式的にも法的三段論法を踏む必要はないが,少なくとも,規範定立を意識した答案が望まれる。」という部分で言及されている論述形式が2つ目の「規範定立を意識した答案」です。上記の採点実感では、1つ目が理想的な論述形式ですが、要件ごとの重要度に応じて2つ目の論証形式を採用しても構わないということが示唆されています。

さらに、「事実からダイレクトに要件を認定する答案」という3つ目の論述形式を採用するべき場合もあります。それは、要件該当性が明白である場合です。

例えば、放火による建造物全焼の事案では、「建造物が全焼しているから『焼損』に当たる。」とだけ書けば足り、独立燃焼説の規範を明示したり(1つ目の論述形式)、当てはめの中で規範の表現を出す(2つ目の論述形式)必要はありません。

基本的に、ある「文言」についての定義や判例・学説は、「文言」と事実を比較するだけでは該当性がはっきりとしないケースにおいて、事実と「文言」該当性との間を架橋するものです。

したがって、「文言」該当性が明白であり、定義や判例・学説により事実と「文言」該当性との間を架橋する必要がないケースでは、定義や判例・学説に言及する必要はありません。

このように、要件ごとに、その重要度、実益などを踏まえて、3つの論述形式から適切な論述形式を選択することになります。これは、他の科目についても共通することです。

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加藤ゼミナールは、加藤喬講師が代表を務める予備試験・司法試験のオンライン予備校です。

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加藤ゼミナール代表取締役
加藤 喬かとう たかし
加藤ゼミナール代表取締役
弁護士(第二東京弁護士会)
加藤ゼミナール代表
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院(既修) 卒業
2014年 労働法1位・総合39位で司法試験合格
2021年 7年間の講師活動を経て、「法曹教育の機会均等」の実現と「真の合格実績」の追求を理念として加藤ゼミナールを設立
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