民法では、論点に辿り着くまでの論述で差が付くことが多いです 。
例えば、94条の基本事例(甲建物に関するAB間で通謀虚偽表示による売買&引渡し、BC間で真実売買&引渡し)なら、訴訟物→請求要件の頭出し→AB間売買(555条)による所有権喪失→通謀虚偽表示によるAB間売買の無効(94条1項)→「善意の第三者」(94条2項)としての保護の有無という流れで、「善意の第三者」に関する論点が顕在化します。主張反論形式や要件事実論に従って書くか否かは別として、上記の流れに従って書く必要があります。
まず初めに、訴訟物(上記事例では、甲建物の所有権に基づく返還請求権としての甲建物明渡請求権)を特定し、答案に明示する必要があります。法律上の根拠がない請求は認められない上に、訴訟物を明らかにすることではじめて請求の法律要件が明らかになるからです。
その上で、訴訟物に紐づけられている法律要件を一つずつ検討します。法律要件の検討に先立ち、法律要件を頭出しする必要があるか否かですが、所有権に基づく返還請求権については、その存在も要件も206条の解釈により導かれるものですから、法律要件を明示するべきです。法律要件は、法的三段論法における大前提ですから、「所有権に基づく返還請求権の要件は、①請求者が当該物の所有権を有することと、②相手方が当該物を現在占有していることの2つである。」というように、個別事情を捨象して抽象的に示す必要があります。法律要件を頭出しする際には、A、B、C、甲建物といった個別事情は出てこないわけです。
上記事例では、Cが甲建物を現在占有していることについては争いがありません(②)。争点となる要件は①です。この①の要件との関係で、94条1項及び2項が出てきます。もっとも、いきなり94条1項及び2項に言及するわけではありません。94条1項及び2項が登場するまでの前提を正しく書けるかどうかでも、差が付きます。
Aが元々甲建物を所有していたことについては、AC間で争いはありません。そのことを前提として、Cは、AB間の売買契約による所有権喪失を主張します。これに対し、Aは、AB間売買は通謀虚偽表示により無効であり(94条1項)、所有権移転という売買の法律効果が発生しないから、Aは甲建物の所有権を失っていないと主張します。これに対し、Cは、善意でBC間売買を締結した自分は「善意の第三者」(94条2項)として保護され、甲建物の所有権を取得するから、これに伴いAは甲建物の所有権を喪失すると主張します。こうした流れを辿って初めて、94条2項の「第三者」に関する論点が出てくるわけです。
また、Cが「善意の第三者」(94条2項)として保護される結果、どうしてAの請求が否定されるのかを理解していない方が少なくないです。上記の通り、Cが「善意の第三者」として甲立野の所有権を取得する結果、Aが所有権を喪失し、①の要件が否定されます。答案の最後でそのことを示す必要があります。94条1項も2項も、法律要件である①の充足性を検討するために論じているのだということを、忘れてはいけません。
以上が民法の答案の書き方です。94条に関する基本事例でも、答案の書き方で大きな差が付きます。これが民法における正しい答案の書き方です。
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